○月○日
『糞闘中』
まる5日、15食分のお通じが無い。
下腹部がぱんぱんに脹らんで今にも張裂けそう。
寝たきりの状態でいると大腸の蠕動が衰えて
ひどい便秘を起こしてしまう。
もはや限界! 座薬を所望する。
『 糞闘中につき入室厳禁!』
赤のマジックペンで手書きの張り紙を廊下に出し
付添のおばちゃんがゴム手袋をしてスタンバイ。
張り紙を見て誰かが笑いながら通る。
その最中に訪問者があったりすると
折角のチャンスを駄目にしてしまう。
ぼくの部屋は病棟の目抜き通りにあるので
いつ、だれが入ってくるか分らない。
〈はい、ごめんなんしょ〉 と言いながら
昨夜も歩行器のおばちゃんが
トイレとまちがって入ってきた。
ウンチは人生と同じ。
幾度かのチャンスがあって
それをつかんだか逃がしたかでは
その後のウン勢が大きく変わる。
付添のおばちゃんは、ぼくの出口に顔をよせて
今か今かとその瞬間を待っている。
まるでお産のようだ。
ぼくは歯をくいしばり、渾身の力を一点に集中させるが
出口にセメントのような硬いものが詰まっていて
いくら力んでも出てこない。
脂汗をたらしながら、もうダメかと思ったその時
ついにやって来た。
〈 オー! ソレ! ホレ! 〉
付添のおばちゃんの掛け声につられ
あとからあとからモリモリモリモリやって来る
おばちゃんもよほど嬉しかったとみえて
イモでも掘り当てたような格好で
せっせせっせと掻き出す。
なにしろ5日分の量というのは半端じゃない。
出るに任せていたら
もくもくと舞茸のような形にふくれ上がり
股間をすっぽり埋め尽くしてしまう。
だから、どんどん掻き出してもらわないと
エライことになってしまう。
〈 ホレ! モット出ろ! モット出せ! 〉
おばちゃんに勇気付けられて、ぼくは天井睨んで頑張る!
つづく