ベンベエの詩的つぶやき

世の中をちょっと斜めに見て・・・

遠い日の匂い

2007-05-27 12:57:18 | 日記・エッセイ・コラム

昼なお薄暗い帳場に
忽然と
青い海が出現した。
一面にやわらかな漣がたち
風がさわさわと吹き抜けていく。

 〈シロアリにやられた畳を新しく替えたのである〉

い草のかぐわしい匂いが鼻腔から延髄をつきぬけ
海馬
(記憶をつかさどる器官)の奥でたゆたうている。

これは・・・・・?!
遠い日々の匂いが今、鮮烈に蘇えってくる。

  永い間ずっと忘れていた。

まどろむ母さんの膝からこぼれて
這い這いしていた懐かしいあの畳の匂い!

光りと好奇と期待を一身に浴びながらも
忽ち赤ちゃんは二本足で立ち上がり
いつの間にか走り出し
あっと思う間もなく還暦を越えた。

  往事茫々
赤ちゃん爺ちゃはこの世に何を残しただろうか。

新しい畳の海に仰向けになって深呼吸すると
肺の奥深くまで
遠い日々の匂いが切々と満ちてくる。

       
吹きぬける風の薫りや畳替え    やす