ベンベエの詩的つぶやき

世の中をちょっと斜めに見て・・・

わが糞闘記/part6

2007-05-09 12:24:18 | 日記・エッセイ・コラム

○月○日

窓ガラスに映る中庭のアメリカハナミズキの
宝石のような赤い実も今はすっかり僅かになってしまった。
宙吊りの姿でヒヨドリがついばんでいる。
枝を発つときのヒヨドリの鳴き声が
〈 ゴチソウサン 〉と、ぼくの耳には聞こえる。

        『証拠』

付添のおばちゃんの話によると
会津地方のおばちゃんちの村では
手のきれいな男は、怠け者・遊び人と見なされ
周囲から信用されないそうだ。
畑仕事・山仕事に精出して働いているから
男たちの手は逞しく、どれもゴツゴツしているのだ。

ある夜、とある後家さんに夜這い騒ぎがあった。
   幸か不幸か、未遂に終わったが・・・・
〈 顔、見だんか? 〉
〈 いいや、真っ暗で逃げてぐ後しか見えねがった 〉
〈 声は聴いだが? 〉
〈 いいや、なんにも言わねがった・・・・
  だども すべすべしたきれいな手さしてだ 〉
〈 ほんじゃ奴めだ! 〉

その一言で犯人は酒屋の○○だとすぐに判った。


       『生きる』

86歳になる寝たきりの老人、
四六時中、オシメをされたままベッドで仰向け。
聞こえているのか、聞こえていないのか
声を掛けられても、アーとかウーとしか反応がない。
ところが不思議なことには、付添婦が長くつづかずに
つぎつぎ替わってしまう。

4人目のおばちゃんが付き添った晩。
うつらうつらしているところへ突如、
どさっ、と大きな物音。
何事ぞ!
身を起こして暗がりを見ると
老人がベッドからずり落ちて
おばちゃんの簡易ベッドとの間でうつぶせになったまま
身動き出来ないでいる。

当直の看護婦とともに抱きかかえ、やっとの思いでベッドに戻す。

推測するに、老人はおばちゃんに挑んだのである。
隣りで眠っている異性の匂いに欲情し
渾身の力をふりしぼって
おばちゃんの上に乗りかかろうとしたのである。

付添婦がつぎつぎ止めていくのは、
それが原因であった。

寝たきりの状態で、
それだけの力がいったい何処から湧いてくるのか
おばちゃんは笑いながら話を終りにしたが
生きることのすさまじさと切なさに
ぼくはしばらくの間、言葉が無かった。

   口あけて尿瓶がわらふ寒さかな

     つづく