客人を那須に案内した。
途中、ひいきの店で買った葡萄パンを齧りながら
新緑がまぶしい! 風が薫る。
久しぶりにあちこちの店を覗き歩き
あらためて那須の奥深さと面白さを満喫した。
三人の客人の一人は40年前に初めて会ったひと。
当時、そのひとも僕も青春真っ只中、
それぞれにそれぞれの世界で輝いていた。
思い起こせば往時茫々----------
〈 祇園精舎の鐘の音 諸行無常の響き 〉である。
サヨナラだけが人生だ と言い切った文士がいたが
まこと、時間も出会いも矢のように遠ざかっていく。
共にかつての青春の輝きは失せて
40年という時間は宇宙の彼方である。
残りの時間が見えてくると
身辺の総てのものが愛しく思えてくる。
若葉を吹いて来る風の音にも 夕べの雨の匂いにも
散華の椿の花にも すれ違うひとの声にも------
格別の感慨が湧いてくる。
けれども人生を虚しいとは考えないようにしている。
虚しい! と思った瞬間、虚しさに取殺されてしまうから---------
過ぎ去っていく時間を追いかけるのはやめよう。
昨日のことに思い煩うのはやめよう。
あれこれ余計なことに心まどわされず
サヨナラだけが人生だと あっさり達観してしまおう。
消えてなほ胸をよぎりし黒揚羽 やす