2001年9月11日の米同時テロ事件の首謀者と目され、国際テロ組織アルカイダの指導者であるウサマ・ビンラディンは潜伏先のパキスタン、イスラマバード郊外の建物に米軍のネイビー・シール等によって構成される部隊に急襲され殺害された。荒野の洞窟に潜伏しているのではないか等といわれ、多額の懸賞金も賭けられていたものの捕まえることが出来ずにいたビンラディンだったがとうとう追いつめられた形だ。
潜伏先の建物はパキスタンでも富裕層の住む高級住宅街で、そのなかでも際立って大きな邸宅だったそうだ。米軍による空襲を許したパキスタン側の事情を考えるに、何らかの代償を持って売ったと考えるのが普通だろう。
オバマ大統領は「正義は成し遂げられた」と演説した。ついでにブッシュⅡもしゃしゃり出てきて、「この画期的な成果は米国の、世界中で平和を求める人々の、そして01年9月11日に愛する人を失ったすべての人々の勝利を示す。テロとの戦いは続く。しかし米国はきょう、どんなに長い時間がかかっても裁きはもたらされるという明白なメッセージを発信した」と長々とコメントした。
他国の住宅街に乗り込んで問答無用で撃ち殺すことを「裁き」と呼ぶなら、警察も裁判所もいらん。アメリカ合衆国はそんな国なのだ。
9.11の犠牲者の多くは実際になんの関係もない人々であり、それは殺される必要のない人々であった。しかしそんなテロを招いたアメリカ政府の理不尽さ、アルカイダのような原理主義者を焚きつけて、手取り足取り戦い方を教え、テロリストに育て上げたアメリカのやってきたことについては反省されることはないのだ。
ビンラディンは生け捕ること等まるで想定されていないかのように乗り込んでいった者どもによって射殺された。もとより本人もいざというときに生きて捕まる可能性などないことは承知していただろう。しゃべらせたらアメリカの不都合な事実が白日のもとに晒されることになる。裁判での証言なんて機会をアメリカ政府が許すわけはないからだ。
新聞各紙の反応を抜粋してみた。
日本経済新聞
オバマ政権は今年7月からのアフガニスタンからの撤収を開始する方針を決めていた。ビンラディン容疑者の死亡はテロとの戦いで一定の成果を上げたと見ることもでき、12年の米大統領選再選を目指す米大統領の政権運営にプラスとなりそうだ。
毎日新聞
今後、アルカイダ系やイスラム過激派によるテロ活動が収束するかは不透明だ。アフガニスタンと隣国パキスタンでは、アルカイダだけでなく、アフガン旧支配勢力タリバンや、これに同調するパキスタンの武装勢力などさまざまなグループが入り交じって自爆テロなどを仕掛けている。米国の「テロとの戦い」は今後も苦戦を強いられそうだ。
朝日新聞
ビンラディン容疑者が殺害されたことで、アルカイダと連携を強めてきたアフガンの反政府勢力タリバーンなどの動きにも影響が出る可能性がある。また、今回の作戦が首都近郊で米国の部隊によってなされたことで、反米感情が高まるパキスタン国内から反発が出る可能性もある。
読売新聞
ビンラーディンの真の脅威は、すでに1人の人間を優に超え、異教徒に対する容赦ないジハード思想が中東のみならずイスラム世界全体に「運動」として浸透していることだ。ビンラーディンの言葉はインターネットを通じて瞬時に世界に伝播、それに感化された小さなビンラーディンたちがさらに過激な呼びかけを行い、欧米人も含む普通の市民がテロの先兵となっている恐怖の現実は、ビンラーディンの死では消えない。
産経新聞
同時テロをはじめとした反米テロ活動の“象徴”となっていたビンラーディン氏の死亡で、米国の「反テロ戦」はこれまでで最大の成果を達成した。ただ、アルカーイダの残存組織はいまだ世界各地に残っており、最高指導者が死亡したことで、テロ活動などの動きが一気に高まる恐れも出ている。
確かに彼はテロを引き起こし大勢の罪のない人を殺した男なのだろう。しかし、人を殺して道義的正義が達成されたなどという政府の方も信用のおけないならず者そのものだ。