松静自然 -太極拳導引が教えてくれるもの-

松静自然とは落ち着いた精神情緒とリラックスした身体の状態をいい、太極拳導引の基本要求でもあります。これがまた奥深く…

練習メモ_導引三調09

2015-09-01 | 行雲流水-日日是太極拳導引-
太極拳導引ではその鍛錬内容である
調身・調心・調息の3つを称して
導引三調と呼んでいます。



 「天下水より柔弱なるはなし(天下莫柔弱於水)」

天下莫柔弱於水 而攻堅強者 莫之能勝 以其無以易之
弱之勝強 柔之勝剛 天下莫不知 莫能行
是以聖人伝 受国之垢 是謂社稷主 受国不祥 是謂天下王
正言若反


道徳経(老子)の一節。
水の性質を比喩として「柔よく剛を制す」の視点から
老子の考える治世(政治=まつりごと)における理想の姿を説いている。

俗にいう「水の徳」を説くカテゴリーに分類される内容で
この中には有名な「上善水のごとし」の一節も含まれる。

水の柔弱性を説いたこの一節では
水は柔弱であるがゆえに固定した形をもたない。
そのため器に応じて方円自在に姿を変える柔軟性に優れる。
その一方で水は滴に姿を変えれば
堅固な岩をも貫通させるほどのつよさも備えている。

自己主張をひそめ周囲に合わせる行為は
外見上は主体性を感じさせないようにみえるが
自らの意志で(意を用いて)受け身に転じることは
内なる自分を外圧から守護する力を持っている。
いたずらに心を弱らせたりプライドを傷つけずにすむ。
いわゆる心が折れるなんてことには
ならなくてすむかもしれない。

挫折は昔からあったことだけど、
これまでは挫けたり凹むくらいで
おさまっていたのだけれど、
昨今の心は折れてしまうものらしい。
こんな表現が流行るくらいだから
よほどかたく強ばっているんだろうなあ。

世の中の仕組みが変わったのか
人の志が変わったのか。
柔弱なるものへの眼差しの向け方を
すこし見直してみればいいんじゃないのかな。




道徳経にはこんな一節もある。

「人の生まるるや柔弱(人之生也柔弱)」

人之生也柔弱 其死也堅強 
万物草木之生也柔脆 其死也枯槁
故堅強者死之徒 柔弱者生之徒
是以兵則不勝 木強則折 強大処下 柔弱処上

人の誕生と死滅、草木の芽生えと枯死に喩えて
いのちの本源は柔弱にあると説いている。


草木の若芽は柔らかく弱々しい。
だから陽光を浴びやすい上方や枝先に集中させる。
そうやって次々と若芽は生育し
強く堅い幹や枝は下部にあってそれらを支えている。
下部にあるということは、より土に近いということだ。
土といえば五行(木・火・土・金・水)の要素でもある。




ここ数回にわたり、やわらかさや剛柔について考察してきたのは
この数ヶ月間、集中して陳式套路を練習してきたことも影響している。
陳式套路を用いて導引的練習を続けて行くにあたり
いわゆる発力動作というものと
どのように向き合い取り組めばいいのか。
このあたりについて師の見解をきいてみたかったからだ。

師の見解は簡潔だった。
その解説も丁寧でわかりやすかったと思う。
だが身体を通して得心するまでには
もう少し時間を要するだろうなあ。


水は器に従い方円自在に姿を変えるほどに弱々しいが
滴となって岩をも貫通するほどの強さを秘めている

導引三調とはやわらかな身体と
その核(芯)となる意を養うためのものなのかも。
そして用意不用力への礎となるのだろう。