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【絵合(えあわせ)の巻】 その(4)
源氏が朱雀院に参上しました折りに、朱雀院は、前斎宮が伊勢に下向なさった折りのことなど、しんみりとお話なさいますが、前斎宮を思う心があったなどとはお話になりません。源氏は朱雀院のご様子を承知している風にはお見せしないで、ただ朱雀院のお気持ちを知りたくて、なにかにと前斎宮にお話を向けられますが、院はただ深く思い沈んでおられます。
源氏は、朱雀院が前斎宮を、これほどに恋しく思われることに、
「めでたしと、思ししみにける御容貌、いかやうなるをかしさにか、とゆかしう思ひ聞え給へど、さらにえ見奉り給はぬを、ねたう思ほす」
――院が、綺麗だという印象を持たれた、前斎宮のご容貌は、いったいどんな美しさなのかと、源氏は拝見したくお思いになりますが、まったくご覧になれないのが、なんとも口惜しいと思うのでした――
源氏は、以前に、前斎宮がもっと子供っぽくいらしたころ、ちらっとでもそのご容貌を垣間見る機会でもあったならば……と思ったりもなさいましたが、今は奥ゆかしさが勝って落度のない、女御として実に理想どおりではあるよ、とも思われるのでした。
「二所の御おぼえども、とりどりにいどみ給へり。」
――帝のお二方へのご寵愛はそれぞれで、お互いに競い合っていらっしゃるように見えます――
さて、
冷泉帝は何にも増して絵にご興味をお持ちで、御自分でも上手にお描きになります。斎宮女御もたいそう面白くお描きになりますので、こちらにお心が移られて、始終お出でになっては、ご一緒に絵を描き合っていらっしゃいます。
斎宮女御の愛らしい風情に、帝は、以前にも増して、しげしげとお越しになり、いっそうご寵愛が増さってみえますのを、権中納言がお聞きになって、負けず嫌いなご性格で、こちらも負けてなるものかと力こぶを入れて、
「すぐれたる上手どもを召し取りて、いみじくいましめて、またなきさまなる絵どもを、二なき紙どもに書き集めさせ給ふ」
――絵の名手たちをお召しになり、厳格に注意して、またとないほどの絵の数々を、これまた二つとない料紙にいろいろとお描かせになります――
ではまた。
【絵合(えあわせ)の巻】 その(4)
源氏が朱雀院に参上しました折りに、朱雀院は、前斎宮が伊勢に下向なさった折りのことなど、しんみりとお話なさいますが、前斎宮を思う心があったなどとはお話になりません。源氏は朱雀院のご様子を承知している風にはお見せしないで、ただ朱雀院のお気持ちを知りたくて、なにかにと前斎宮にお話を向けられますが、院はただ深く思い沈んでおられます。
源氏は、朱雀院が前斎宮を、これほどに恋しく思われることに、
「めでたしと、思ししみにける御容貌、いかやうなるをかしさにか、とゆかしう思ひ聞え給へど、さらにえ見奉り給はぬを、ねたう思ほす」
――院が、綺麗だという印象を持たれた、前斎宮のご容貌は、いったいどんな美しさなのかと、源氏は拝見したくお思いになりますが、まったくご覧になれないのが、なんとも口惜しいと思うのでした――
源氏は、以前に、前斎宮がもっと子供っぽくいらしたころ、ちらっとでもそのご容貌を垣間見る機会でもあったならば……と思ったりもなさいましたが、今は奥ゆかしさが勝って落度のない、女御として実に理想どおりではあるよ、とも思われるのでした。
「二所の御おぼえども、とりどりにいどみ給へり。」
――帝のお二方へのご寵愛はそれぞれで、お互いに競い合っていらっしゃるように見えます――
さて、
冷泉帝は何にも増して絵にご興味をお持ちで、御自分でも上手にお描きになります。斎宮女御もたいそう面白くお描きになりますので、こちらにお心が移られて、始終お出でになっては、ご一緒に絵を描き合っていらっしゃいます。
斎宮女御の愛らしい風情に、帝は、以前にも増して、しげしげとお越しになり、いっそうご寵愛が増さってみえますのを、権中納言がお聞きになって、負けず嫌いなご性格で、こちらも負けてなるものかと力こぶを入れて、
「すぐれたる上手どもを召し取りて、いみじくいましめて、またなきさまなる絵どもを、二なき紙どもに書き集めさせ給ふ」
――絵の名手たちをお召しになり、厳格に注意して、またとないほどの絵の数々を、これまた二つとない料紙にいろいろとお描かせになります――
ではまた。