永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(147)

2008年09月01日 | Weblog
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【絵合(えあわせ)の巻】  その(4)

 源氏が朱雀院に参上しました折りに、朱雀院は、前斎宮が伊勢に下向なさった折りのことなど、しんみりとお話なさいますが、前斎宮を思う心があったなどとはお話になりません。源氏は朱雀院のご様子を承知している風にはお見せしないで、ただ朱雀院のお気持ちを知りたくて、なにかにと前斎宮にお話を向けられますが、院はただ深く思い沈んでおられます。

 源氏は、朱雀院が前斎宮を、これほどに恋しく思われることに、
「めでたしと、思ししみにける御容貌、いかやうなるをかしさにか、とゆかしう思ひ聞え給へど、さらにえ見奉り給はぬを、ねたう思ほす」
――院が、綺麗だという印象を持たれた、前斎宮のご容貌は、いったいどんな美しさなのかと、源氏は拝見したくお思いになりますが、まったくご覧になれないのが、なんとも口惜しいと思うのでした――

 源氏は、以前に、前斎宮がもっと子供っぽくいらしたころ、ちらっとでもそのご容貌を垣間見る機会でもあったならば……と思ったりもなさいましたが、今は奥ゆかしさが勝って落度のない、女御として実に理想どおりではあるよ、とも思われるのでした。

 「二所の御おぼえども、とりどりにいどみ給へり。」
――帝のお二方へのご寵愛はそれぞれで、お互いに競い合っていらっしゃるように見えます――

さて、
 冷泉帝は何にも増して絵にご興味をお持ちで、御自分でも上手にお描きになります。斎宮女御もたいそう面白くお描きになりますので、こちらにお心が移られて、始終お出でになっては、ご一緒に絵を描き合っていらっしゃいます。
斎宮女御の愛らしい風情に、帝は、以前にも増して、しげしげとお越しになり、いっそうご寵愛が増さってみえますのを、権中納言がお聞きになって、負けず嫌いなご性格で、こちらも負けてなるものかと力こぶを入れて、

「すぐれたる上手どもを召し取りて、いみじくいましめて、またなきさまなる絵どもを、二なき紙どもに書き集めさせ給ふ」
――絵の名手たちをお召しになり、厳格に注意して、またとないほどの絵の数々を、これまた二つとない料紙にいろいろとお描かせになります――

ではまた。


源氏物語を読んできて(源氏物語絵巻・本来の姿)

2008年09月01日 | Weblog
源氏物語絵巻・本来の姿
「国宝・源氏物語絵巻」は、かつて、絵が描かれた部分と物語をつづった部分が交互につながっていた。物語をつづった部分を「詞書」という。金銀の箔を散らした豪華な料紙に、流れるようなかな文字がつづられている。

 実寸は、縦22センチ前後、横は巻物を広げて楽しめる幅、両手で広げて見る幅40~50センチを、一つの区切りに。

国宝の現在の物は、傷みがはげしいので、絵と詞書きを切り離して保存している。

◆写真と参考 NHK出版

源氏物語を読んできて(源氏物語絵巻・引目鈎鼻)

2008年09月01日 | Weblog
引目鈎鼻(ひきめかぎばな)という技法
 
 登場人物たちの顔は、直線的な目、鈎形(かぎがた)のような鼻、小さな口。具体的に美男美女を描こうとすれば、見る者は興ざめしてしまうだろう。個性を表さない描き方こそ、見る者の想像力をかき立てる最高の技法である。

◆写真・参考:NHK出版