永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(168)

2008年09月22日 | Weblog
9/22  168回

【薄雲(うすくも)の巻】  その(7)

 東の院にいらっしゃる花散里というお方は、気立てがおおようで、無邪気で、源氏とはこれだけのご縁と、あきらめて、めずらしいほどのんびりとしておられますので、夜のお泊まりのようなことはないものの、源氏のほうでも気安くお出でになります。他の人に侮られないようにと、お身の回りには、家司も別当も置かれて、紫の上と同じように大事にしていらっしゃいます。

 源氏は明石の御方の侘びしさを、絶えず思われていましたが、公私ともに多忙の時期が過ぎました頃、いつもよりねんごろにお化粧なさって、

「桜の御直衣に、えならぬ御衣ひき重ねて、たきしめ装束き給ひて、罷り申し給ふさま、隈なき夕日に、いとどしく清らに見え給ふを、女君ただならず見奉り送り給ふ」
――桜襲(さくらがさね=表白、裏蘇おう色)の直衣で、下には立派な御衣を引き重ねて、香を薫きしめたのを召されて、紫の上にお出かけのご挨拶をしにいらしたご様子が、
隈なくさし入る夕日に、たいそうお美しく映えていらっしゃいますのを、紫の上は、心穏やかならずお見上げし、お送りなさいます。――

 紫の上は、ほんの子供子供していらっしゃって、あちこちはしゃぎまわる姫君を、可愛いと思われますので、遠くに住むあの女を妬ましく思うお心も薄れて、源氏のこともお許しになるのでした。そして、

「いかに思ひおこすらむ、われにて、いみじう恋ひしかりぬべきさまを、と、うちまもりつつ、ふところに入れて、うつくしげなる御乳をくくめ給ひつつ、戯れ居給へる御さま見所多かり。」
――あちらの方は、このような成り行きをどのように思っていることでしょう。私なら、とても我が子を恋しく思うに違いないものを…と、じっと姫君を見つめ、また抱き上げて、美しい御乳を含ませなさって、戯れていらっしゃるご様子は、はた目に拝見しても素晴らしい光景です――

御前なる人々は、
「『などか。同じくは。いでや』など語らひ合へり」
――お前に控えている女房たちは、「どうしてかしら、思うようにならないものね。同じ事ならば、本当のお子様でしたらねぇ」などと話し合っています。――

◆このあたりに、紫の上の性格がよく出ています。

◆写真 桜襲(さくらかさね)の色合い

ではまた。