永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(155)

2008年09月09日 | Weblog
9/9  155回

【絵合(えあわせ)の巻】  その(11)

 源氏は、須磨の浦の絵日記を、そのまま藤壺へ差し上げ、他の御絵もいづれ順々に差し上げましょうとおっしゃいます。権中納言は、源氏があからさまに梅壺女御に肩入れなさるのをご覧になって、弘徴殿女御が気圧されるのではないかと、心を痛めておられます。帝は、その後も弘徴殿女御に親しまれておいでなので、まさかいくら何でもご寵愛が遠のくことはないであろうと、お思いになります。

「この御時より、と末のひとの言ひ伝ふべき例を添へむと思し、私様のかかるはかなき御遊びもめづらしき筋にせさせ給ひて、いみじみ盛りの御世なり」
――この御代に始ったと、後の人が言い伝えるような、新例を加えようと源氏は思われて、ちょっとした内々の遊びでも、目新しい趣向をお考えになりますので、またとない、栄え栄えとした時代となったのでございます。――

「大臣ぞ、なほ常なきものに世を思して、今すこしおとなびおはしますと見奉りて、なほ世を背きなむ、と深く思ほすべかめる」
――しかし源氏は、世の中を無常なものとお感じになって、冷泉帝がもう少し成長なさるのを見定めて後、やがて出家をしたいとお考えのようです――

 古来の例を引くまでもなく、若年にして高位高官にのぼり、世に抜きんでる人物は長く命を保てないものである。今の御代では、自分の地位も世評も分に過ぎている。中途で一度世に無いも同然の身に落ちぶれ果てた苦しさの代わりに、今まで命も永らえていられるのだろう。

「今より後の栄はなほ命うしろめたし、しづかに籠もり居て、後の世の事をつとめ、かつは齢をも述べむ、と思ほして、山里ののどかなるを占めて、御堂作らせ給ふ」
――今後このままの栄華では、やはり命の末が恐ろしい。静かに引きこもって、後世のために勤行を励み、一つには寿命をも保ちたいと思われて、山里の静かな土地を入手されて、御堂をお造らせになります。――
幼少のお子様方を、理想どおりにお育てになりたいともお思いになりますので、その点からも出家は難しそうですのに、いったいどのようなお心づもりで、お寺などお建てになりますのか、お心の内は推し量れません。

◆ 源氏物語屏風絵

【絵合(えあわせ)の巻】おわり。ではまた。