永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(173)

2008年09月27日 | Weblog
9/27  173回

【薄雲(うすくも)の巻】  その(12)

 僧都は、申し上げましたことが、怪しからぬと思し召してのことかと、肩をすぼめて退出しかかりますと、お呼び止めになって、
「心に知らで過ぎなましかば、後の世までの咎めあるべかりける事を、今まで忍び籠められたりけるをなむ、かへりてうしろめたき心なりと思ひぬる。(……)」
――こうした重大事を知らずに過ぎてしまったなら、死後までも罪になるはずのものを、今まで隠しておかれたことが、かえって恨めしく思えたのです。(他にこの事情を知っていて、世に洩らすような者がいましょうか)――

「さらに、なにがしと王命婦とより外の人、この事の気色見たる侍らず。……」
――私と王命婦の他には、この事情を知るものはおりません。(ですから、ひどく恐ろしいのです。このところの天変の異常、疫病の流行はこの為でしょう。上様が次第にご成長なされますに至りまして、天がその咎を示すのでござりまする。すべてのことは、御親の御時から始ったことで、上様には何の咎ともご存知遊ばさないのが恐ろしく、一旦は口外すまいと決心仕りましたことを、今更申し上げました次第でござりまする。)――

 僧都は、以上のことを泣く泣く奏上されているうちに、夜も明けましたので退出しました。

 冷泉帝は、夢心地にこの恐ろしいことをお聞きになって、さまざまに思い乱れていらっしゃいます。亡き院のためにもお心が咎められ、また実の御父の大臣(源氏)が、このように臣下として仕えておいでになるのも、まことにもったいないことであったと、
あれこれ煩悶されて、日が高くなってもお出ましになりません。

 源氏は、帝のご様子をお聞きになって急いで参内なさいます。冷泉帝の御涙をご覧になり、故母君を、なお忘れ難くて、ご気分も湿りがちであろうと、お見上げするのでした。

 その日、式部卿の親王(故桐壺院の御弟君)がお薨れになりました。ますます世の中の不穏がつづくことよと、帝はお嘆きになります。このような折りですので、源氏は二条院へ退出されず、帝のお側に付き添っていらっしゃいます。

◆写真:今上帝(冷泉帝)は、桐壺院の第十皇子。実は源氏と藤壺の子。
    藤壺の死後、夜居の僧都の奏上により、真実を知る。

ではまた。