永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(167)

2008年09月21日 | Weblog
9/21  167回

【薄雲(うすくも)の巻】  その(6)

 「御しつらひ雛遊びの心地してをかしう見ゆ。姫君の襷引き結ひ給へる胸つきぞ、うつくしげさ添ひて見え給へる。」
――お飾り付けはすべて小さく、まるで、ままごとのように美しく眺められます。姫君がはい回るので、袴が落ちないように襷(たすき)がけに結んで差し上げているひもが、可愛らしさを添えていらっしゃる。――

 大堰の明石の御方は、姫君のことをいつになっても恋しく、あちらへむざむざとお渡ししてしまった愚かさに思い沈んでいらっしゃる。尼君もあのように立派なことを明石の御方に申したものの、涙もろくなっておいでです。けれどもあちらでの袴着のことなどお聞きになって、安心もし、うれしく思うのでした。

 「なにごとか、なかなかとぶらひ聞え給はむ。ただ御方の人々に、乳母よりはじめて、世になき色あひを思ひいそぎてぞ、贈り聞え給ひける」
――姫君への袴着のお祝いに、あちらでは万事に行き届いていらっしゃるところへ、何を差し上げたらよいでしょう。ただ、姫君がたの人々に、乳母をはじめとして、立派な色合いのご衣裳を急いでご用意して、お贈りなさいます――

 源氏は、姫君を手に入れたら案の定、お出でになるのが間遠いと思っておられるかと、明石の御方がお気の毒なので、年の明けない内にお忍びでおいでになります。さぞかし、あのような淋しいお住いにあって、大切な姫君とも遠くはなれていらっしゃることへの心苦しさに、

「御文なども絶え間なく使はす。女君も、今はことに怨じ聞え給はず、うつくしき人に罪ゆるし聞え給へり」
――明石の御方へは、お便りは頻繁に差し上げます。紫の上も、今はことさら嫉妬もなさらず、可愛い姫君に免じて大目にみておいでのようです。――

年が代わりました。
うららかな空に、何の不足のない二条院の御有様は、大層目出度く、磨き清められた御殿には、参賀にお集まりの年輩の方々がお出でになります。

◆写真:袴着のお支度
    左から紫の上、明石の姫君、源氏

ではまた。