永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(163)

2008年09月17日 | Weblog
9/17  163回

【薄雲(うすくも)の巻】  その(2)

母の尼君は思慮深い人で、

「あぢきなし。見奉らざらむ事は、いと胸いたかりぬべけれど、つひにこの御ためによかるべからむ事をこそ思はめ。(……)」
――それはつまらないご心配ですよ。姫君と暮らせないのは大変心苦しいことでしょうが、結局姫君の為に良いように考えましょう。(良い加減に考えてのことではないでしょうから、ただただ源氏の御方をご信頼申し上げましょう。)――

さらに、
「この大臣の君の、世に二つなき御有様ながら、世に仕へ給ふは、故大納言の、今ひときざみなりおとり給ひて、更衣腹といはれ給ひしけじめにこそはおはすめれ。(……)また親王たち大臣の御腹といへど、なほさし向かひたる劣りの所には、人も思ひ貶し、親の御もてなしも、えひとしからぬものなり。」
――源氏の君が、またとないご立派なお人柄なのに、臣下としてお仕えになる訳は、故按察使の大納言(源氏の母桐壺の御父にあたる)が他の方より一段と官位がお低いために、母君が更衣に留まられたということなのです。(まして皇族でない方の場合は、これどころではありません)母君が親王家、大臣家の姫君であっても、今が無力な家であれば、人も世間も軽く見、父親も等しくお世話できないものです――

また、
「ましてこれは、やむごとなき御かたがたにかかる人出でものし給はば、こよなく消たれ給ひなむ。程ほどにつけて、親にもひとふしもてかしづかれぬる人こそ、やがて貶められぬ初めとはなれ。(……)」
――ましてこの姫君の場合をお考えなさい。他のご身分の高い女君に、源氏の御子がお生まれになりましたならば、ぐんと落とされておしまいになるでしょう。(姫君の御袴着の式を、どんなに心を尽くしたとて、このような深山では何の見栄えがするでしょう、姫君をあちらでお世話なさるご様子を、よそながらご覧なさいまし。)――

と諭されます。

 明石の御方は、然るべき方や、占者に訊ねてみますが、やはり姫君は紫の上の方へお移りになることをお薦めになりますので、姫君の為に良いことならばと、苦しくも決心するのでした。

ではまた。



源氏物語を読んできて(親子・血縁)

2008年09月17日 | Weblog
王朝貴族の価値観
 
 子孫繁栄ということが、この時代の被飛び地の最高の価値である。子供を産んだ女は母親として重んぜられる。
 
 最高は、帝の后となって皇子を産むこと。臣下にあっては女子を産むこと。いずれも人間わざで左右できぬことが最大の関心事である。
 
 桐壺の更衣は男皇子(光源氏)を産んだため、それまで冷然と見下していた弘徴殿女御の態度が変わり、後宮の嫉妬から、政治問題に変質していく。
 男皇子は皇太子候補者として内親王とは影響するところ格段の差がある。

◆参考:源氏物語手鏡