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【薄雲(うすくも)の巻】 その(2)
母の尼君は思慮深い人で、
「あぢきなし。見奉らざらむ事は、いと胸いたかりぬべけれど、つひにこの御ためによかるべからむ事をこそ思はめ。(……)」
――それはつまらないご心配ですよ。姫君と暮らせないのは大変心苦しいことでしょうが、結局姫君の為に良いように考えましょう。(良い加減に考えてのことではないでしょうから、ただただ源氏の御方をご信頼申し上げましょう。)――
さらに、
「この大臣の君の、世に二つなき御有様ながら、世に仕へ給ふは、故大納言の、今ひときざみなりおとり給ひて、更衣腹といはれ給ひしけじめにこそはおはすめれ。(……)また親王たち大臣の御腹といへど、なほさし向かひたる劣りの所には、人も思ひ貶し、親の御もてなしも、えひとしからぬものなり。」
――源氏の君が、またとないご立派なお人柄なのに、臣下としてお仕えになる訳は、故按察使の大納言(源氏の母桐壺の御父にあたる)が他の方より一段と官位がお低いために、母君が更衣に留まられたということなのです。(まして皇族でない方の場合は、これどころではありません)母君が親王家、大臣家の姫君であっても、今が無力な家であれば、人も世間も軽く見、父親も等しくお世話できないものです――
また、
「ましてこれは、やむごとなき御かたがたにかかる人出でものし給はば、こよなく消たれ給ひなむ。程ほどにつけて、親にもひとふしもてかしづかれぬる人こそ、やがて貶められぬ初めとはなれ。(……)」
――ましてこの姫君の場合をお考えなさい。他のご身分の高い女君に、源氏の御子がお生まれになりましたならば、ぐんと落とされておしまいになるでしょう。(姫君の御袴着の式を、どんなに心を尽くしたとて、このような深山では何の見栄えがするでしょう、姫君をあちらでお世話なさるご様子を、よそながらご覧なさいまし。)――
と諭されます。
明石の御方は、然るべき方や、占者に訊ねてみますが、やはり姫君は紫の上の方へお移りになることをお薦めになりますので、姫君の為に良いことならばと、苦しくも決心するのでした。
ではまた。
【薄雲(うすくも)の巻】 その(2)
母の尼君は思慮深い人で、
「あぢきなし。見奉らざらむ事は、いと胸いたかりぬべけれど、つひにこの御ためによかるべからむ事をこそ思はめ。(……)」
――それはつまらないご心配ですよ。姫君と暮らせないのは大変心苦しいことでしょうが、結局姫君の為に良いように考えましょう。(良い加減に考えてのことではないでしょうから、ただただ源氏の御方をご信頼申し上げましょう。)――
さらに、
「この大臣の君の、世に二つなき御有様ながら、世に仕へ給ふは、故大納言の、今ひときざみなりおとり給ひて、更衣腹といはれ給ひしけじめにこそはおはすめれ。(……)また親王たち大臣の御腹といへど、なほさし向かひたる劣りの所には、人も思ひ貶し、親の御もてなしも、えひとしからぬものなり。」
――源氏の君が、またとないご立派なお人柄なのに、臣下としてお仕えになる訳は、故按察使の大納言(源氏の母桐壺の御父にあたる)が他の方より一段と官位がお低いために、母君が更衣に留まられたということなのです。(まして皇族でない方の場合は、これどころではありません)母君が親王家、大臣家の姫君であっても、今が無力な家であれば、人も世間も軽く見、父親も等しくお世話できないものです――
また、
「ましてこれは、やむごとなき御かたがたにかかる人出でものし給はば、こよなく消たれ給ひなむ。程ほどにつけて、親にもひとふしもてかしづかれぬる人こそ、やがて貶められぬ初めとはなれ。(……)」
――ましてこの姫君の場合をお考えなさい。他のご身分の高い女君に、源氏の御子がお生まれになりましたならば、ぐんと落とされておしまいになるでしょう。(姫君の御袴着の式を、どんなに心を尽くしたとて、このような深山では何の見栄えがするでしょう、姫君をあちらでお世話なさるご様子を、よそながらご覧なさいまし。)――
と諭されます。
明石の御方は、然るべき方や、占者に訊ねてみますが、やはり姫君は紫の上の方へお移りになることをお薦めになりますので、姫君の為に良いことならばと、苦しくも決心するのでした。
ではまた。