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【絵合(えあわせ)の巻】 その(7)
女房たちが絵についていろいろと論議を戦わすのをお聞きになって、右と左とに三人づつお分けになります。
先ず、物語の親ともいうべき、「竹取の翁」に「俊蔭」を合わせて争わせます。
左方は、
「……かぐや姫のこの世の濁りにも穢れず、遙かに思ひのぼれる契りたかく、神世のことなめれば、浅はかなる女、目及ばぬならむかし」
――(これは古物語で特別というわけではありませんが)、かぐや姫がこの世の濁りにも穢れず、気位高く、はるかに遠く天へ上られました宿縁はえらいもので、浅はかな女には、目にも及ばないことでしょう――
すると右方は反対として、こう言います。
「……この世の契りは竹の中に結びければ、下れる人のこととこそは見ゆめれ。ひとつ家の内は照らしけめど、百敷(ものしき)のかしこき御光には、ならはずなりにけり。……」
――現世のご縁は、竹の中で生まれたのですから、素性は卑しい人と思われます。身の光で、家の中を照らしたでしょうが、宮中に入内して尊い帝の御光に並ぶ后の位には上りませんでした。(かぐや姫を妻に求めてきた五人の男のうち、阿倍多(あべのおおし)が、千金を捨てて、折角火鼠のかわごろもを買った切ない思いも、火に焼かれてあっという間に消えてしまったのは、なんとはかないことでしょう。車持親王(くらもちのみこ)もまた。……(つまりかぐや姫は、無理難題と知りながら、玉の枝にも自分の身にも疵をつけたこともよくない点です)――
竹取物語の絵は、巨勢相覧(こせのおうみ)、字は紀貫之(きのつらゆき)です。
次に右方は、宇津保物語の俊蔭のことを言います。絵は常則、字は小野東風です。
次に、伊勢物語と正三位(しょうさんみ=散逸)を合わせて……などと進みますが、なかなか勝負がつきません。
源氏も参内なさって、このように絵について思い思いに言い争い、色めき立っていますのを興あるものと思われて、
「同じくは、御前にてこの勝負定めむ、と宣ひなりぬ」
――おなじことなら、帝の御前でこの勝負を決めようではありませんか、ということになりました――
ではまた。
【絵合(えあわせ)の巻】 その(7)
女房たちが絵についていろいろと論議を戦わすのをお聞きになって、右と左とに三人づつお分けになります。
先ず、物語の親ともいうべき、「竹取の翁」に「俊蔭」を合わせて争わせます。
左方は、
「……かぐや姫のこの世の濁りにも穢れず、遙かに思ひのぼれる契りたかく、神世のことなめれば、浅はかなる女、目及ばぬならむかし」
――(これは古物語で特別というわけではありませんが)、かぐや姫がこの世の濁りにも穢れず、気位高く、はるかに遠く天へ上られました宿縁はえらいもので、浅はかな女には、目にも及ばないことでしょう――
すると右方は反対として、こう言います。
「……この世の契りは竹の中に結びければ、下れる人のこととこそは見ゆめれ。ひとつ家の内は照らしけめど、百敷(ものしき)のかしこき御光には、ならはずなりにけり。……」
――現世のご縁は、竹の中で生まれたのですから、素性は卑しい人と思われます。身の光で、家の中を照らしたでしょうが、宮中に入内して尊い帝の御光に並ぶ后の位には上りませんでした。(かぐや姫を妻に求めてきた五人の男のうち、阿倍多(あべのおおし)が、千金を捨てて、折角火鼠のかわごろもを買った切ない思いも、火に焼かれてあっという間に消えてしまったのは、なんとはかないことでしょう。車持親王(くらもちのみこ)もまた。……(つまりかぐや姫は、無理難題と知りながら、玉の枝にも自分の身にも疵をつけたこともよくない点です)――
竹取物語の絵は、巨勢相覧(こせのおうみ)、字は紀貫之(きのつらゆき)です。
次に右方は、宇津保物語の俊蔭のことを言います。絵は常則、字は小野東風です。
次に、伊勢物語と正三位(しょうさんみ=散逸)を合わせて……などと進みますが、なかなか勝負がつきません。
源氏も参内なさって、このように絵について思い思いに言い争い、色めき立っていますのを興あるものと思われて、
「同じくは、御前にてこの勝負定めむ、と宣ひなりぬ」
――おなじことなら、帝の御前でこの勝負を決めようではありませんか、ということになりました――
ではまた。