永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(151)

2008年09月05日 | Weblog
9/5  151回

【絵合(えあわせ)の巻】  その(8)

 源氏は、このようなこともあろうかと、極上のものの中に、かの須磨、明石の二巻も思うところがあって、これらに加えてお上げになります。もとより権中納言とても、ひけをとるまいと、意気込んでいらっしゃいます。秘密の部屋を設けて、そこで描かせておいでらしい。

 朱雀院もこのことをお聞きになって、梅壺女御に御絵をお贈りになります。

「年の内の節会どもの面白く興あるを、昔の上手どものとりどりに書けるに、延喜の御手づから、事心の書かせ給へるに、またわが御世の事も書かせ給へる巻に、かの斎宮の下りし日の大極殿の儀式、御心にしみて思しければ、書くべきやうくはしく仰せられて、公茂が仕うまつれるが、いといみじきを奉らせ給へり。」
――宮中の年中行事などの面白く趣深い場面を、昔の名人たちがそれぞれ趣向を凝らして書かれたものの上に、醍醐の帝が自らその絵の意味をお書きになったもの。また朱雀院ご自身の御代のこともお書かせになった絵巻の中に、かの斎宮が伊勢に下られる日の大極殿の儀式を、お心に沁みてお思いになっていましたので、構図なども詳しくお指図されて、巨勢公茂(こせのきんもち)がお描き申し上げ、大層見事にできていますのも、お届けになります。――

 院から、梅壺の女御へのお便りは、左近の中将をお使いに立てての口上で、

朱雀院のうた
「身こそかくしめの外なれそのかみの心のうちをわすれしもせず」
――私の身はこうして内裏を離れていますが、あの当時の思いは、今も忘れてはいない――とだけ。

 梅壺の女御は、お返事をなさらないのも、畏れ多いことですので、昔、斎宮としてお使いの、かんざしの端を少し折って、

「しめのうちは昔にあらぬ心地して神代のこともいまぞ恋しき」
――御所内も昔と変わったような心地がしますが、ご在位当時が今更懐かしく思われます――

「縹の唐の紙につつみて参らせ給ふ。御使いの禄などいとなまめかし」
――薄藍の唐の紙に包んでお上げになります。お使いの左近中将への賜り物などたいそう優美です――

 朱雀院は女御の御返歌をご覧になるにつけても、限りもなくあわれにお心が動かれて、ご在位の頃をなつかしく、あの頃を取り返したいようにさえ思われるのでした。前斎宮を冷泉帝に進められた源氏をつれないとお思いになったことでしょう。これも昔、源氏を須磨へ左遷させた御報いでありましょうか。

ではまた。


源氏物語を読んできて(竹取物語②)

2008年09月05日 | Weblog
竹取物語のあらすじ②

 彼らがあきらめそうにないのを見て、翁がかぐや姫に「女は男と結婚するものだ。お前も彼らの中から選びなさい」というと、かぐや姫は「なぜ結婚などしなければならないの」と嫌がるが、「『私の言うものを持ってくることができた人と結婚したいと思います』と彼らに伝えてください」と言った。

 夜になると、例の五人が集まって来た。翁は五人の公達を集め、かぐや姫の意思を伝えた。
 その意思とは石作皇子には仏の御石の鉢、庫持皇子には蓬莱の玉の枝、右大臣阿倍御主人には火鼠の裘、大納言大伴御行には龍の首の珠、中納言石上麻呂には燕の子安貝を持ってこさせるというものだった。どれも話にしか聞かない珍しい宝ばかりで、手に入れるのは困難だった。

 石作は只の鉢を持っていってばれ、車持は偽物をわざわざ作ったが職人がやってきてばれ、阿倍はそれは燃えない物とされていたのに燃えて別物、大伴は嵐に遭って諦め、石上は大炊寮の大八洲という名の大釜が据えてある小屋の屋根に上って取ろうとして腰を打ち、断命。結局誰一人として成功しなかった。

 そんな様が帝(みかど)に伝わり、姫に会いたがった。喜ぶ翁の取りなしにも関わらず彼女はあくまで拒否を貫くが、不意をついて訪ねてきた帝に姿を見られてしまう。しかし、一瞬のうちに姿を消して地上の人間でないところを見せ、結局帝をも諦めさせた。しかし、彼と和歌の交換はするようになった。

 帝と和歌を遣り取りするようになって三年の月日が経った頃、かぐや姫は月を見て物思いに耽るようになった。八月の満月が近づくにつれ、かぐや姫は激しく泣くようになり、翁が問うと「自分はこの国の人ではなく月の都の人であり、十五日に帰らねばならぬ」という。それを帝が知り、翁の意を受けて、勇ましい軍勢を送ることとなった。

 そして当日、子の刻頃、空から天人が降りてきたが、軍勢も翁も嫗も戦意を喪失し抵抗できないまま、かぐや姫は月へ帰っていく。別れの時、かぐや姫は帝に不死の薬と天の羽衣、帝を慕う心を綴った文を贈った。しかし帝はそれを駿河国の日本で一番高い山で焼くように命じた。それからその山は「不死の山」(後の富士山)と呼ばれ、また、その山からは常に煙が上がるようになった。(おわり)

◆写真 :月へ帰って行くかぐや姫