永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(174)

2008年09月28日 | Weblog
9/28  174回

【薄雲(うすくも)の巻】  その(13)

 帝は、しみじみとしたお話のついでに、譲位をほのめかされますので、源氏は思いもよらぬことと、お諫めになります。帝がいつもより畏まったご様子で、遠慮がちにお話になりますのを、源氏は不思議に思いながら、こうまではっきりと秘密をお耳にされたとは、お思いになりません。

上様のお悩み、
「上は、王命婦にくはしきこと問はまほしう思し召せど、今更に、……」
――冷泉帝は、王命婦に詳しいことを聞きたいと思われますが、故宮がそれほど秘しておられたことを、自分が知ったと今更王命婦に思われたくない――

「ただ大臣にいかでほのめかし問ひ聞えて、前ざきかかる事の例はありけりや、と、問ひ聞かむ、とぞ思せど……」
――源氏の大臣にそれとなくお尋ねして、過去にもこのようなことがあったでしょうか、と、聞いてみようとお思いになりますが、そのような機会もなく――

「さまざまの書どもをご覧ずるに、唐土には、あらはれても忍びても、乱りがはしき事いと多かりけり。日本には、さらにご覧じ得るところなし」
――さまざまな和漢の書をご覧になりますと、唐土(もろこし)では、公然でも、秘密裡にも、君主の血統の正しくないことが、大層多いのでした。日本には、そのような例は絶対にお見出しになることはありませんでした。――

さらに、帝は
 臣籍に下った人が、納言や大臣になった後に、また親王に復帰して、皇位にお着きになった例は、今までもあることだ。源氏の人柄の賢明でいらっしゃるのを理由にして、譲位しようか。などとあれこれ思い巡らしておいでです。

 秋の司召しに、帝は源氏の大臣に、またご譲位のことをお洩らしなさいます。源氏は、恥ずかしく恐ろしい気がなさって、絶対にさようなことは、あるべきでないとご辞退されます。太政大臣もお受けにならず、元の位のままに、ただ位階だけが昇進して、

「牛車ゆるされて参りまかでし給ふを、帝飽かずかたじけなきものに思ひ聞え給ひて、なほ親王になり給ふべきよしを宣はすれど」
――牛車のまま宮門の出入り(参内しまたは退出されるのをすること)をゆるされますが、冷泉帝は、なおも気が引けて申し訳なく、親王になられるようにと、おっしゃいます。――

ではまた。