永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(154)

2008年09月08日 | Weblog
9/8  154回

【絵合(えあわせ)の巻】  その(11)

 帥の宮は、

 何の道にも、習っただけのものはあるものでしょう。筆をとる道と、碁をうつことだけは、深い修行もなくて天分による者も出てきますが、やはり名門の子弟の中には、抜群のご器量があるようです。故院も、あなたのことを、詩文の才は申すまでもない、琴の琴(きんのこと)を第一に、横笛、琵琶、箏の琴(そうのこと)を習い得た、とおっしゃっておられました。その上絵までもこれほどとは…、昔の墨書きの名人も逃げ出しそうなご技量とは、けしからぬことです、と冗談めいて言われます。

 故院のお話が出ましたので、みなしんみりとして、萎れておしまいになります。

 二十日過ぎの月がさし出でて、空一面が美しく映えそめた頃なので、源氏は

「書司の御琴召し出でて、和琴、権中納言賜り給ふ。親王、箏の御琴、大臣、琴、琵琶は少将の命婦仕うまつる。上人のなかに、すぐれたるを召して、拍子給はす。いみじう面白し」
――書司(ふんのつかさ)の御琴をお取り寄せになって、権中納言には和琴(わごん)を仰せつけになります。この方も人に優れて見事にお弾きになります。帥の宮は箏の御琴(そうのおんこと)、源氏は琴(きん)を、琵琶は少将の命婦がおつとめなさいます。殿上人の中で、すぐれた者を召して、拍子をとることを命じます。なんとも言えず趣深いお遊びでございます。


「明けはつるままに、花の色も人の容貌どももほのかに見えて、鳥のさへづる程、心地ゆきめでたき朝ぼらけなり」
――夜の明けはなれてゆくにつれて、花の色も人のお顔のなども、ほのかに見えて、鳥の囀る声もはれやかに満ちたりた朝ぼらけのご様子でした。

◆書司(ふんのつかさ)=後宮十二司の一つ。後宮の書籍、文具、楽器などのことを掌る。