永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(175)

2008年09月29日 | Weblog
9/29  175回

【薄雲(うすくも)の巻】  その(14)

 源氏は、
「世の中の御後見し給ふべき人なし、(……)何事もゆづりてむ、さて後に、ともかくも静かなるさまに、とぞ思しける。」
――そうなっては、太政大臣として帝を補佐なさる人がいない。(権中納言―葵の上の兄で、元の頭中将―が、昇進したなら)政務一切をまかせて、そうして後は、とにもかくにも気楽な身になろう、と、お思いになります。――

 そう思い巡らしつつ、帝が、あのことをご存知の上で、お悩みになっていらっしゃるのであろうか。もしそうであれば、畏れ多く、一体誰が、このようなことを…と訝しくお思いになります。そして王命婦に対面しようと。

 この王命婦は、(かつては、藤壺に仕えていた)今は御櫛笥殿の別当が変わられた後に移って、局を頂いてお仕えしております。
源氏は、
「『この事を、もし物のついでに、露ばかりにても漏らし奏し給ふ事やありし』と案内し給へど」
――「この秘密を、もしや何かのついでに、ちょっとでも故宮(藤壺の宮)が帝にお洩らし申されたことがありますか」とおたづねになりますと――

命婦は、
「『更に、かけても聞し召さむことを、いみじき事に思し召して、かつは罪うることにや、と、上の御為をなほお思し召し嘆きたりし』と聞ゆるも」
――「帝がちょっとでもご存知になりますことを、故宮は全く大変な事にお思いになりまして、又一方では、ご存知なくては罪障深いことになりはしないかと、帝のことをお考えになっては、嘆いておられました」と申し上げますと――

 源氏は藤壺の思慮深さに、懐かしくも悲しく思い出されて、限りなく恋しく思うのでした。

さて、
 斎宮の女御(梅壺女御)は、源氏がお思いになっておられたとおり、帝の良いお世話役を果たされ、ご寵愛も格別で、源氏も今では本当の親のように丁重にお扱いになっておられます。
その斎宮の女御が、秋になって二条院へ一時の里下がりをされています。

◆里下がり=宮中は穢を嫌いますので、例えば、病気、生理などの時は実家に戻ります。そのことを里下がりといいます。これは女性はみな。

ではまた。