前振りの告知記事では「参加するかどうか分からない」とあった「シャープ公金支出住民訴訟2周年の集い」ですが、やはり参加してきました。参加の決め手となったのは、シャープ堺工場のHPで、盛んに環境保護の宣伝をやっていたからです。今や脱原発がらみで脚光を浴びている、太陽光発電などに使われる液晶パネルが主力製品である事から、「グリーンフロント」工場と銘打ち、省エネの取組みについて盛んに宣伝していました。このHPを見ると、私でも「社会貢献事業なのだから公金支出も仕方ないかな」と一瞬思ってしまうほどです。しかし実際はどうなのか。それを解明すべく「集い」に参加してきました。本当はもっと早く記事にするつもりでしたが、ここ連日の暑さとパソコンの不調で、今になってしまいました。以下、取り急ぎ報告します。
※写真は左から右へ順に、住民団体の旧版リーフレット表紙、シャープの本体工場、併設の大日本印刷の工場(液晶パネルの原料をシャープに供給している)。
当該「集い」は、7月17日(日)14時から堺市民会館4階大集会室にて、ほぼ2時間半に渡って行われました。前半は開会挨拶に続いて立命館大学の森裕之教授による講演「シャープ住民訴訟と『橋下維新・大阪都構想』」が行われ、休憩を挟んで後半はピアノ伴奏による合唱「炎の街から」の後、パワーポイント(撮影写真)による現地の様子の説明があり、裁判の到達点について弁護団からの報告と経験交流、前半の講演についての質疑応答、住民訴訟原告団からの訴え、閉会挨拶という流れで、17時前に終わりました。聴衆は100名弱ぐらいだったと思います。ここでは、そのうちの当該「集い」のメーン企画でもある、前半の森教授の講演に的を絞って報告させて貰います。
「市民のために使われるはずの税金が、何故特定の大企業(シャープ)のために使われるのか?」「そもそも地方自治とは、誰の何の為のものか?」「自治体の主人公は企業なのか住民なのか?」を巡って争われているこの住民訴訟で、「今の大阪府・堺市の実態が、いかに大企業の下請け行政と化してしまっているか」という事が、講演で数字を挙げて具体的に説明されました。数字については財政指標等も挙げられて詳しく説明されましたが、逐一書くと煩雑になるのでここでは省いて、講演の要旨だけ報告します。
会場配布資料の中に、「シャープ立地への公金支出をただす会」という住民団体が発行したリーフレット(改訂版のゲラ)があり、そこの説明文が非常に分かりやすいので、講演要旨もそれに沿って説明します。
まず、下記のゲラ表面に沿って、シャープと大阪府・堺市との癒着の実態について。
シャープに対しては、大阪府から330億円の補助金、堺市は504億円の減税が行われています。しかし、いくら堺市が減税しても、それは堺市の勝手であり、国からの交付金は一切増額されません。その差額は全て市が補填しなければならなくなっています。
ゲラの裏面(下記)には、「補助金だけではない」として、シャープに対する特別な便宜供与について、以下のものが挙げられています。
●税金丸抱えで工場周辺道路・インフラ整備。
講演では、親水アメニティ道路として整備されたものなのに、海岸は立入禁止となっていると皮肉っていました。
●工場横の埋立地突端部に設けられた広域防災拠点。
今は防災緑地となっている場所ですが、「大地震には、液状化や津波に襲われ兼ねないこんな海岸べりに、何故防災拠点を作るのか?」「道路などのインフラ整備を行政が行う口実にしているだけではないか」。
●下水再生施設への補助。
シャープはHPで盛んに工場の下水再生利用を謳っているが、これも行政丸抱えではないか。
●シャープのためのLRT(次世代型の低床式路面電車)敷設。
JR阪和線堺市駅―南海高野線堺東駅―阪堺電軌大小路駅―南海本線堺駅―堺浜(シャープ工場のある所)を東西に結ぶLRT構想も、阪堺電車の赤字減らしと旧市街地活性化の為とされ、先の市長選でも主要争点になったが、これも実はシャープへの通勤の便宜を図るのが最大の狙いではないか。
●指名停止中の業者と随意契約。
これらのインフラ工事を堺市は清水建設に発注したが、清水建設はこの時指名停止中だった。そんな業者と何故随意契約を結んだのか。「工期短縮の為」だそうだが根拠が実に曖昧。
●大規模開発なのに、都市計画法や堺市の条例で定められた開発許可や環境アセスメントの手続きを、理由もなく免除している。
●それで当の堺市民には、バカ高い国保料や全国最低レベルの行政水準だけがしわ寄せされる。これでは一体、何の為に住民税を払っているのか、誰の為の地方自治か分からない。
そして森教授は、「いくらシャープにこんな便宜を図った所で、シャープ工場の減価償却が進めば工場の資産価値も下がり、固定資産税も減収になり最終的にはゼロになる。それを避けるために、更なる企業誘致にのめり込む事になる。これでは、原発を誘致した自治体が、更なる原発増設にのめり込んでいった構図と全く同じではないか。こんな行政の企業依存を、「地方分権」だと言って推進するのは詭弁でしかない」と、断じておられました。
このシャープによる乱開発を後押ししているのが、「大阪都」構想を掲げる橋下徹・大阪府知事です。
同構想については、「東京都の例に倣い、大阪市と大阪府を合併して大阪都とする事で、二重行政のムダを省く」ぐらいに思っている人が大多数だろうと思います。しかし、実際はそれだけでなく、周辺部の堺・豊中・守口・東大阪などの各市も全て「大阪都の特別区」となり、それ以外の府下市町村も全て人口30~40万規模の「中核市」に再編されます。泉南・南河内地域では5つぐらいの市町村が集まってようやく単一の「中核市」となりますが、これでは用事で市役所に行くのにも一苦労します。そして最終的には道州制施行で「大阪都」も「関西州」に併合される事になる。
橋下ブレーンの上山信一という人の著書「大阪維新」(角川新書)によれば、この「大阪都」になる事で、今の東京都の特別区と同じ権限が移譲され、区長も任命制から公選制になり、地方分権が進む・・・という事ですが、これでは自治体が巨大化した分、ますます住民にとっては縁遠い存在になるのではないでしょうか。
これでは、幾ら区長公選と言っても、「地盤・看板・鞄」のある人物しか区長に立候補できず、勢い金権選挙か人気投票にならざるを得ない。それに、特別区になると区議会も設置しなければならず、「公務員削減」にもならない。これでは「行政のムダを省く」どころか、ますます自治体が「金権・利権の巣」になりかねない。そうやって、住民の抵抗を腕ずくで抑え込み、シャープ誘致に税金をつぎ込もうとしている。ここまで来れば、もう「地方自治の破壊」でしかない。これの一体どこが「地方分権」なのか。
「大阪都」や「関西州」にする本当の狙いは、自治体リストラと選挙ファシズムで財界奉仕の乱開発を強行する事にあります。実際、講演の中でも、「大阪都」構想に対する疑問が、以下の様に述べられていました。
●大阪衰退の原因はグローバリゼーションと東京一極集中による産業空洞化にある。その根本原因に目を瞑ったまま、「東京の物まね・後追い」に走り、「大阪府」を「大阪都」にして行政の器を入れ替えても何の解決にもならない。
●幾ら公選制でも、金権選挙の横行と多数の横暴では独裁にしかならない(ヒットラーによる政権獲得の手法と同じ)。そんな制度の是非よりも、実際に民主主義が機能しているか否かの方が遥かに重要である。例えば、ニューヨークの区長も公選ではないが、実際の区政運営は行政委員(コミュニティボード)によって担われており、区長や市長もその勧告を無視する事が出来ない仕組みになっている。
●企業誘致にしても、大企業が儲かれば住民が潤う(所謂「トリクルダウンの論理」)という単純なものではない。実際は大企業が儲けただけ、住民は食い物にされただけだったのは、これまでの巨大開発でも明らか。液晶パネルの製造も新興国からの追い上げが激しい分野で、三重県のシャープ亀山工場も僅か数年で中国に移転してしまい、地元には企業補填のツケが残されただけだった。
●その背景にあるのは、「大企業依存」の「経済成長・競争至上主義」「拝金主義」の考え方である。「住みやすさ」よりも「集客と金儲け」のみを追求し、「後は野となれ山となれ」という、無責任で荒んだ考え方だ。(注:なるほど、橋下知事が「カジノ・風俗・貸金特区」構想に執着するのも、この考え方から来るのか)
この様に「言っている事がもう支離滅裂」だと。これでは、不況・失業や低福祉の真の原因たるデフレ・産業空洞化・格差拡大には何も手をつけずに、「二重行政」さえ解消すれば全て上手く行くと、「地方公務員」叩きに問題をすり替え、原因を作った真犯人(財界・中央政府・多国籍企業)に追及の手が及ばないようにしているだけではないか。
それが証拠に、大阪では私鉄・地下鉄の相互乗り入れが進んでいないのも「二重行政」のせいにされているが、これも単なる印象操作に過ぎない。政府主導で鉄道が敷かれ、私鉄は後から発達した東京では、山手線の内側に進出するには地下鉄と相互乗り入れする以外に無かった。それに対し、私鉄王国の関西では、民間主導で鉄道が敷かれ、環状線の内側に先に私鉄ターミナルが形成された為に(難波・上本町・天満橋など)、地下鉄も迂闊に手が出せない状態が長い間続いた。その東西の歴史的差異を、「大阪都」構想は意図的に無視している・・・と。
そして、こんなデタラメな理屈は、少し考えれば誰でもオカシイと気付く筈なのに、「バスに乗り遅れるな」と、時流に阿る事しか考えない政治家ばかりだから、誰も何も言わない。一般府民も「見て見ぬ振り」で、大阪全体が思考停止に陥っている(まるで戦前の日本や今の北朝鮮のように)。
「京都市・神戸市が無くなるとなれば当該市民は黙っていないのに、何故、大阪市が無くなっても市民は平気なのか?」「所詮、大阪とはその程度のものだったのか?」という事で、「今秋には大阪市長選と府知事選のダブル選挙が予定されているが、そこでは大阪の民意が問われる事になる」と、訴えられていました。
この最後の訴えについては、私も大阪府民として思う所が多々あります。実際、以前に大阪市の南区と東区が合区で中央区になった時も、「由緒あるミナミの名を残せ」という運動が地元商店会を中心に行われましたが、大きくは広がりませんでした。また、堺市で政令指定都市移行に伴う区政施行の際も、「浜寺区、大浜区、泉北区」などが誕生するかと思いきや、さに在らず、「東区・西区・北区・南区」という無味乾燥な区名が機械的に割り当てられただけだったのに、それに対する反対の声が堺市民からは殆ど挙がりませんでした。
それだけを見ると、「大阪は豊臣秀吉の時代に地方から出て来た流れ者が作った商人の町だから仕方ないか」という気がしますが、しかしその一方で、堺を中心とした住民による公害反対運動によって、70年代には黒田革新府政を誕生させた歴史もある訳で・・・。その時の息吹は一体どこに行ってしまったのかと、そう思うと忸怩たる想いで一杯です。
如何に「液晶パネル製造工場」の誘致で、「自然エネルギー産業」だ「エコで脱原発だ」と言っても、根本にあるのが「大企業依存」の「経済成長・競争至上主義」「拝金主義」では何もならない、それでは今までの原発推進の姿勢と同じではないか。肝心なのは、「企業や知事ではなく住民が主人公かどうか」「制度上や建前だけでなく本当に地方自治や民主主義が機能しているかどうか」という事ではないか。それを痛切に感じされられた講演会でした。
(参考資料)
・グリーンフロント堺(シャープ堺工場の愛称)HP
http://www.sharp.co.jp/sakai/enter.html
・シャープ液晶最新主力工場 1ヶ月間休業に追い込まれる(J-CASTニュース)
http://www.j-cast.com/2011/04/12092706.html?p=all
・シャープが堺・亀山の大型液晶工場を休止、真相は大震災でなく販売不振(東洋経済)
http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/3e8277e8da8eba964c39a89e08c1e162/
・Category[ シャープ堺工場 ] - 混沌写真
ブログ主のカオスさんによる現地の定点観測写真が秀逸。
http://chaos08.blog17.fc2.com/blog-category-15.html
※写真は左から右へ順に、住民団体の旧版リーフレット表紙、シャープの本体工場、併設の大日本印刷の工場(液晶パネルの原料をシャープに供給している)。
当該「集い」は、7月17日(日)14時から堺市民会館4階大集会室にて、ほぼ2時間半に渡って行われました。前半は開会挨拶に続いて立命館大学の森裕之教授による講演「シャープ住民訴訟と『橋下維新・大阪都構想』」が行われ、休憩を挟んで後半はピアノ伴奏による合唱「炎の街から」の後、パワーポイント(撮影写真)による現地の様子の説明があり、裁判の到達点について弁護団からの報告と経験交流、前半の講演についての質疑応答、住民訴訟原告団からの訴え、閉会挨拶という流れで、17時前に終わりました。聴衆は100名弱ぐらいだったと思います。ここでは、そのうちの当該「集い」のメーン企画でもある、前半の森教授の講演に的を絞って報告させて貰います。
「市民のために使われるはずの税金が、何故特定の大企業(シャープ)のために使われるのか?」「そもそも地方自治とは、誰の何の為のものか?」「自治体の主人公は企業なのか住民なのか?」を巡って争われているこの住民訴訟で、「今の大阪府・堺市の実態が、いかに大企業の下請け行政と化してしまっているか」という事が、講演で数字を挙げて具体的に説明されました。数字については財政指標等も挙げられて詳しく説明されましたが、逐一書くと煩雑になるのでここでは省いて、講演の要旨だけ報告します。
会場配布資料の中に、「シャープ立地への公金支出をただす会」という住民団体が発行したリーフレット(改訂版のゲラ)があり、そこの説明文が非常に分かりやすいので、講演要旨もそれに沿って説明します。
まず、下記のゲラ表面に沿って、シャープと大阪府・堺市との癒着の実態について。
シャープに対しては、大阪府から330億円の補助金、堺市は504億円の減税が行われています。しかし、いくら堺市が減税しても、それは堺市の勝手であり、国からの交付金は一切増額されません。その差額は全て市が補填しなければならなくなっています。
ゲラの裏面(下記)には、「補助金だけではない」として、シャープに対する特別な便宜供与について、以下のものが挙げられています。
●税金丸抱えで工場周辺道路・インフラ整備。
講演では、親水アメニティ道路として整備されたものなのに、海岸は立入禁止となっていると皮肉っていました。
●工場横の埋立地突端部に設けられた広域防災拠点。
今は防災緑地となっている場所ですが、「大地震には、液状化や津波に襲われ兼ねないこんな海岸べりに、何故防災拠点を作るのか?」「道路などのインフラ整備を行政が行う口実にしているだけではないか」。
●下水再生施設への補助。
シャープはHPで盛んに工場の下水再生利用を謳っているが、これも行政丸抱えではないか。
●シャープのためのLRT(次世代型の低床式路面電車)敷設。
JR阪和線堺市駅―南海高野線堺東駅―阪堺電軌大小路駅―南海本線堺駅―堺浜(シャープ工場のある所)を東西に結ぶLRT構想も、阪堺電車の赤字減らしと旧市街地活性化の為とされ、先の市長選でも主要争点になったが、これも実はシャープへの通勤の便宜を図るのが最大の狙いではないか。
●指名停止中の業者と随意契約。
これらのインフラ工事を堺市は清水建設に発注したが、清水建設はこの時指名停止中だった。そんな業者と何故随意契約を結んだのか。「工期短縮の為」だそうだが根拠が実に曖昧。
●大規模開発なのに、都市計画法や堺市の条例で定められた開発許可や環境アセスメントの手続きを、理由もなく免除している。
●それで当の堺市民には、バカ高い国保料や全国最低レベルの行政水準だけがしわ寄せされる。これでは一体、何の為に住民税を払っているのか、誰の為の地方自治か分からない。
そして森教授は、「いくらシャープにこんな便宜を図った所で、シャープ工場の減価償却が進めば工場の資産価値も下がり、固定資産税も減収になり最終的にはゼロになる。それを避けるために、更なる企業誘致にのめり込む事になる。これでは、原発を誘致した自治体が、更なる原発増設にのめり込んでいった構図と全く同じではないか。こんな行政の企業依存を、「地方分権」だと言って推進するのは詭弁でしかない」と、断じておられました。
このシャープによる乱開発を後押ししているのが、「大阪都」構想を掲げる橋下徹・大阪府知事です。
同構想については、「東京都の例に倣い、大阪市と大阪府を合併して大阪都とする事で、二重行政のムダを省く」ぐらいに思っている人が大多数だろうと思います。しかし、実際はそれだけでなく、周辺部の堺・豊中・守口・東大阪などの各市も全て「大阪都の特別区」となり、それ以外の府下市町村も全て人口30~40万規模の「中核市」に再編されます。泉南・南河内地域では5つぐらいの市町村が集まってようやく単一の「中核市」となりますが、これでは用事で市役所に行くのにも一苦労します。そして最終的には道州制施行で「大阪都」も「関西州」に併合される事になる。
橋下ブレーンの上山信一という人の著書「大阪維新」(角川新書)によれば、この「大阪都」になる事で、今の東京都の特別区と同じ権限が移譲され、区長も任命制から公選制になり、地方分権が進む・・・という事ですが、これでは自治体が巨大化した分、ますます住民にとっては縁遠い存在になるのではないでしょうか。
これでは、幾ら区長公選と言っても、「地盤・看板・鞄」のある人物しか区長に立候補できず、勢い金権選挙か人気投票にならざるを得ない。それに、特別区になると区議会も設置しなければならず、「公務員削減」にもならない。これでは「行政のムダを省く」どころか、ますます自治体が「金権・利権の巣」になりかねない。そうやって、住民の抵抗を腕ずくで抑え込み、シャープ誘致に税金をつぎ込もうとしている。ここまで来れば、もう「地方自治の破壊」でしかない。これの一体どこが「地方分権」なのか。
「大阪都」や「関西州」にする本当の狙いは、自治体リストラと選挙ファシズムで財界奉仕の乱開発を強行する事にあります。実際、講演の中でも、「大阪都」構想に対する疑問が、以下の様に述べられていました。
●大阪衰退の原因はグローバリゼーションと東京一極集中による産業空洞化にある。その根本原因に目を瞑ったまま、「東京の物まね・後追い」に走り、「大阪府」を「大阪都」にして行政の器を入れ替えても何の解決にもならない。
●幾ら公選制でも、金権選挙の横行と多数の横暴では独裁にしかならない(ヒットラーによる政権獲得の手法と同じ)。そんな制度の是非よりも、実際に民主主義が機能しているか否かの方が遥かに重要である。例えば、ニューヨークの区長も公選ではないが、実際の区政運営は行政委員(コミュニティボード)によって担われており、区長や市長もその勧告を無視する事が出来ない仕組みになっている。
●企業誘致にしても、大企業が儲かれば住民が潤う(所謂「トリクルダウンの論理」)という単純なものではない。実際は大企業が儲けただけ、住民は食い物にされただけだったのは、これまでの巨大開発でも明らか。液晶パネルの製造も新興国からの追い上げが激しい分野で、三重県のシャープ亀山工場も僅か数年で中国に移転してしまい、地元には企業補填のツケが残されただけだった。
●その背景にあるのは、「大企業依存」の「経済成長・競争至上主義」「拝金主義」の考え方である。「住みやすさ」よりも「集客と金儲け」のみを追求し、「後は野となれ山となれ」という、無責任で荒んだ考え方だ。(注:なるほど、橋下知事が「カジノ・風俗・貸金特区」構想に執着するのも、この考え方から来るのか)
この様に「言っている事がもう支離滅裂」だと。これでは、不況・失業や低福祉の真の原因たるデフレ・産業空洞化・格差拡大には何も手をつけずに、「二重行政」さえ解消すれば全て上手く行くと、「地方公務員」叩きに問題をすり替え、原因を作った真犯人(財界・中央政府・多国籍企業)に追及の手が及ばないようにしているだけではないか。
それが証拠に、大阪では私鉄・地下鉄の相互乗り入れが進んでいないのも「二重行政」のせいにされているが、これも単なる印象操作に過ぎない。政府主導で鉄道が敷かれ、私鉄は後から発達した東京では、山手線の内側に進出するには地下鉄と相互乗り入れする以外に無かった。それに対し、私鉄王国の関西では、民間主導で鉄道が敷かれ、環状線の内側に先に私鉄ターミナルが形成された為に(難波・上本町・天満橋など)、地下鉄も迂闊に手が出せない状態が長い間続いた。その東西の歴史的差異を、「大阪都」構想は意図的に無視している・・・と。
そして、こんなデタラメな理屈は、少し考えれば誰でもオカシイと気付く筈なのに、「バスに乗り遅れるな」と、時流に阿る事しか考えない政治家ばかりだから、誰も何も言わない。一般府民も「見て見ぬ振り」で、大阪全体が思考停止に陥っている(まるで戦前の日本や今の北朝鮮のように)。
「京都市・神戸市が無くなるとなれば当該市民は黙っていないのに、何故、大阪市が無くなっても市民は平気なのか?」「所詮、大阪とはその程度のものだったのか?」という事で、「今秋には大阪市長選と府知事選のダブル選挙が予定されているが、そこでは大阪の民意が問われる事になる」と、訴えられていました。
この最後の訴えについては、私も大阪府民として思う所が多々あります。実際、以前に大阪市の南区と東区が合区で中央区になった時も、「由緒あるミナミの名を残せ」という運動が地元商店会を中心に行われましたが、大きくは広がりませんでした。また、堺市で政令指定都市移行に伴う区政施行の際も、「浜寺区、大浜区、泉北区」などが誕生するかと思いきや、さに在らず、「東区・西区・北区・南区」という無味乾燥な区名が機械的に割り当てられただけだったのに、それに対する反対の声が堺市民からは殆ど挙がりませんでした。
それだけを見ると、「大阪は豊臣秀吉の時代に地方から出て来た流れ者が作った商人の町だから仕方ないか」という気がしますが、しかしその一方で、堺を中心とした住民による公害反対運動によって、70年代には黒田革新府政を誕生させた歴史もある訳で・・・。その時の息吹は一体どこに行ってしまったのかと、そう思うと忸怩たる想いで一杯です。
如何に「液晶パネル製造工場」の誘致で、「自然エネルギー産業」だ「エコで脱原発だ」と言っても、根本にあるのが「大企業依存」の「経済成長・競争至上主義」「拝金主義」では何もならない、それでは今までの原発推進の姿勢と同じではないか。肝心なのは、「企業や知事ではなく住民が主人公かどうか」「制度上や建前だけでなく本当に地方自治や民主主義が機能しているかどうか」という事ではないか。それを痛切に感じされられた講演会でした。
(参考資料)
・グリーンフロント堺(シャープ堺工場の愛称)HP
http://www.sharp.co.jp/sakai/enter.html
・シャープ液晶最新主力工場 1ヶ月間休業に追い込まれる(J-CASTニュース)
http://www.j-cast.com/2011/04/12092706.html?p=all
・シャープが堺・亀山の大型液晶工場を休止、真相は大震災でなく販売不振(東洋経済)
http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/3e8277e8da8eba964c39a89e08c1e162/
・Category[ シャープ堺工場 ] - 混沌写真
ブログ主のカオスさんによる現地の定点観測写真が秀逸。
http://chaos08.blog17.fc2.com/blog-category-15.html