脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

「ボケって悪くなったりよくなったりするのね」と友が~部分的に正解!

2016年10月29日 | 認知症からの回復

友人が「ボケって治るのね」と話し始めました。
小ボケの症状2で紹介した方の後日談でした。3年前にお茶飲み友達や幼なじみが次々にいなくなり、体調も壊し何もしない日々が続いた結果、脳機能の老化が加速してしまって、小ボケになった90歳のおばあちゃんのその後です。あの時から3年たってます。
浜松市楽器博物館のディスプレイ(実務研修会会場です)

小ボケから3年たつとそろそろ中ボケも終わるころ、大ボケが見え始めるころになることが多いのですが、離れでの人暮らしを 継続されていたとのこと。
ということはまだ十分に中ボケのレベルを保っていたということです。
緩やかな進行の時は、「脳を使う生活がそれなりにある」ということを意味します。体調の回復に従って農作業は続けていらっしゃたことと、週1回のディサービスが始まったことが、脳を使う時間だったということでしょう。デイサービスはスタッフが上手にほめてくれたりして、楽しい時間だったそうです。

目覚ましい改善は難しくても、悪くならない状態は保てていたようです。低空飛行なりに安定していたのに、この夏事件が勃発。
「どうも調子が悪いから、病院に連れて行ってほしい」といわれて娘さんが離れに行きました。
「えっ、そんな恰好で病院に行くの?」と絶句。パジャマのまま!慌てて着替えさせて病院に行ってからまたひと悶着 。いつも入っているはずの保険証がない!、出かけるときに、いつも病院に行くときのバッグを持っていたので保険証の確認もしなかったそうです。ほんとにいつもそのバッグのそのポケットに入っていたのに。
保険証を探すために、離れに行った娘さんは愕然としたそうです。きちんとしたおばあさんだったのですが、部屋も雑然としていつものおばあさんらしくはなかったのですが、「体調が悪かったからかな」と思ったそうです。それよりも引き出しを開けて、そのあまりのぐちゃぐちゃさに声が出るほどだったとか。

診断は「熱も咳もないけど、軽い肺炎でしょう」ということでそのまま入院。
小ボケが終わるころから中ボケに入るくらいの状態で 、入院しても何かとトラブルを起こします。
検査のために飲食不可が守れなかったり、薬がきちんと飲めなかったり、訴えがしつこくて看護スタッフが困ったり。 
ちなみにはっきり中ボケだと、点滴を引き抜いたり、夜中に廊下を歩き回ったりします。となりの人の枕頭台のお菓子などを食べてしまうこともあります。
このおばあちゃんはそんな大きな問題は起こさなかったのですが、「早く退院したい。こんなとこにいたらボケちゃう」 とい言い続け、もちろん経過もよかったのでしょうが5日間でめでたく退院できました。
 
さて、退院した当日。「離れに一人で寝せるわけにはいかない」と 母屋で隣のお部屋に寝かせたそうです。
私はこのようなお話を聞くと「脳の機能が落ちているときには、家族はそのことがわかるのだなあ」と感動するのです。
入院の直前までは一人暮らしができていたわけです。多少気になることはあったでしょうけれど。
入院時のトラブルで、「えっボケが進んでしまったの!?」とびっくりしたことでしょう。でも病院では大きなトラブルは起こさなかったし、とにかく退院許可が下りてめでたく退院。それならば元のように離れに連れて行ってもいいようなものですが、何か気になるのでしょうね。

「脳がうまく働いていない」というとらえ方ではなくて、脳の働きの結果である「生活のやり方」に不安を覚えるのですね。
「夜中、ちゃんと寝てくれるかしら?」「お布団をかけすぎて、熱中症にならないかしら?」「トイレは?」などなど。
体が不自由になっていても脳機能が万全だったら、その人の判断や言われることを聞いてあげるだけで生活を支えることは簡単です。
その逆に、脳が万全に働いてない状態で体が動かせるときは、目が離せなくて家族の介護負担は大きなものになりますね。生活を組み立てていくベースは脳機能です。

明け方に廊下でコツコツと杖の音が。娘さんが慌てて出ていくと「ここじゃあ、寝られない。離れに連れて行ってほしい」と言い張るのです。
「朝になったら、連れて行くから今はここで我慢して」といくら言っても言うことを聞きません。ここがちょっと変ですよね?時間が時間ですから。
そんなことがあって、また前のように離れで一人暮らしが再開されました。
私の友人がびっくりしたように言うのです。
「入院した時のことを考えると、今までよりはるかに悪くなってるわけでしょ。急にそうなったのよね。それが退院して一人暮らしになったら『ボケちゃあいけない。ひとりでなんでもやらなきゃあいけない』と根性丸出しで頑張ってくれたらしいけど、そうしたらよくなったんですって。ボケって悪くなったり、よくなったりするのね」

一部正解。
認知症は一朝一夕に完成するものではありません。
生きがいも趣味も交遊もなく、もちろん運動もしないというナイナイ尽くしの生活に入ってから「小ボケは3年、中ボケ4~5年、6年たったら大ボケになる」とエイジングライフ研究所は言います。
脳を使う状況があれば、脳機能は持ちますからこの期間は長くなります。ナイナイ尽くしの上にさらなる悪条件、例えば心配事が起きるとか家族状況の変化とか聴力低下とか足腰の痛みなどが加味されたら、老化のスピードは緩やかに速くなります。
今回のように急激な体調不良のために、体力と同時に脳の力も急に極端に低下した時には、体力の回復と同時に従前の生活に戻しさえすれば脳の力も入院前レベルまでは割合簡単に戻るものです。
よくあるのが、病後だからといって安静にさせ過ぎてしまうことです。特に高齢の場合はその傾向が強くて、前と同じ生活に戻らないことが多いのです。
特に入院が長期にわたると、本人も家族も退院しても何もしない生活が当たり前のように思うことが多いようですね。
体の安静はそのまま脳の安静も意味しますから、「入院したらボケが進んだ。退院しても元に戻らない。病気したのだから仕方がない」というとらえ方が横行しています。
 
私「『ボケがよくなった』っていうけど、ほんとによくなってもともとのおばあちゃんになったわけじゃないでしょ?たかだか入院前までよくなったってことでしょう。小ボケの時に生活改善がきちんとできていたら、その人がその人らしく生活していたもともとのレベルまで よくなるのよ。
でもまだ世の中は、こんなに簡単なメカニズムで認知症になったり、治ったり、悪くなったりするって思ってないものね。
薬を開発してアミロイドやタウをどうにかしようとしているんですものね。そうじゃなくて、生活のあり方(脳の使い方)そのものが認知症の原因にもなり、改善法でもあることを知っておいてほしいの」 

 


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