脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

「温もりの家 脳トレ倶楽部」訪問記

2023年09月02日 | 認知症予防教室
伊豆に移る前には、同じ静岡県ですが西部の磐田市に住んでいました。当時から親しくさせていただいているA木先生から「温もりの家で、ボクたちがやっている高齢者脳トレサロンの見学にいらっしゃい」と以前からお誘いをうけていました。今回、夏休みのイベントとして大学時代の友人とお邪魔しました。

A木先生は、県職員(医師)として障がい者教育、福祉分野のお仕事をなさった後、公民館館長、特別養護老人ホーム施設長など歴任されて、今は磐田市緑ヶ丘学園(知的障がいを持つ方々の施設入所支援及び日中活動支援の施設)の隣地で知的障がい者の方々のために種々の企画 を繰り広げ、さまざまな活動を続けていらっしゃいます。
広い敷地の一段高いところに「温もりの家」はありました。さっぱりとして気持ちいい建物とお庭が居心地の良い雰囲気を醸し出しています。
門からそこに至る所には、A木先生の「来訪者を楽しませたい」という思いがそこここに見てとれました。



「僕たちは、自主的なところが自慢でね。みんなでアイディアを持ち寄ってできることを楽しみながらやっている」といわれていましたが、A木先生はアイディアマンであり、また情報に対するアンテナも高い。そのうえに知的障がいの方々を導くことがお仕事だったので、「その人にできること」という視点がいつもあって、どんな人が対象であってもこの姿勢は、その場を心地よいものにする力があります。
「温もりの家」にも、今までさまざまな取り組みがあった様子が手に取るように飾り付けられていました。









まず検温してお茶を飲んで、今日のサロンが始まります。

A木先生のあいさつやプログラムの説明がありました。プログラムにある「倶楽部制作」の文字のオンパレードこそ、この脳トレサロンの特徴なのですね。温もりの家をベースにした「脳トレ倶楽部」があってその一部門としての「脳トレサロン」。
「脳トレ倶楽部」は趣味活動として参加する人だったり、ボランティアだったりの皆さんが様々な活動をしているようです。お花畑や野菜畑。そういえばアサギマダラを呼びこみたいということで我が家の金時草も嫁入りさせましたが、うちの金時草畑よりもはるかに広い畑になっていました。はびこった竹の始末をした話も聞きました。ニンニクを使って、芽を育てたり、黒ニンニクを作ったり、とにかく脳トレ倶楽部にはさまざまの取り組みがあるのです。
いくつかの趣味の教室もあるらしいです。「若い層にもバトンを渡さなければいけないので、ボーイスカウトにも声をかけてるよ」ということばも聞かれました。
メニューが始まると一緒に楽しんでしまって、うまくレポートができませんが、フマネット運動 は初めて聞く運動でどんなものかと興味津々でした。
フマネット運動には決められたネットがあるのですが、おおきな網のようなものですから広げるにも手間暇がかかるということで、脳トレ倶楽部制作のネットは、カラフルなビニール生地にサイズを合わせて色テープを張り付けたもの。「こうすれば準備も片付けもひと手間でできる」確かに。
右が脳トレ倶楽部製作マット(奥に手作りゲームがあります)

最初はネットを踏まないように歩くだけという簡単すぎるくらいのレベルから始まって、どんどん難しくできるところがこの運動の良さでしょう。
足の運びも難しくできるし、音楽(童謡でした)を入れることで、リズムや音に乗せて拍手をいれるような運動も足せます。皆さん小声で歌っていましたが、おおきな声で歌ってもいいでしょう。
フマネット運動第一段階

フマネット運動
十二支ゲームは倶楽部制作ですから、どんなものかと期待が高まります。

形が違うだけでなく、中に入っているものも違うので、投げた感触はみんな違います。

チームへの声援は作戦伝達のチャンスでもあります。

5タイプの球を投げて枠内の入るところ、しかも縦横斜めが揃って初めて得点になる。
投げるものが様々というところが一番の工夫。枠が予想外に動くために球の着地場所が最後まで分からない。
2グループでの対抗戦。個人の上手下手だけで決まらないところも和やかさにつながる工夫がされている。声援で盛り上がる。特別の技術が不要。
「十二支ゲーム」の名前の由来は、「枠内が単なる無地では面白くないので、ネットで見つけて十二支のイラストを使用した。足りないのはかわいいイラストを追加」自由で柔軟ですね。
左がA木先生。おん歳89歳!

体を動かした後は、倶楽部リーダーのO石さんによるクイズ「みんなで当てよう!考えよう?皆でお茶をしながら楽しむ」コーナー。座ってお茶とお菓子を楽しみながら。

Q「エレベータ 少女が一人 乗ってきた 行くのは上か それとも下か」(あ、ガール)
「三人の少女が乗ってきたら?」(さ(ん)ガール)
「動物を英語で書いてみた時に、PとAだけで書ける動物はなあに」(P AND A)
けっこう頭を使いました。笑いながら。毎回このような面白いクイズを考えてきてくれるそうです。O石さんの前頭葉は活性化されると思います。
ランチも楽しい。



ふだんはお弁当持ちより程度らしいですが、今日はギャラリー「風の家」に移動して手作りカレーライスをいただきました。
さすがに、一ひねりが効いているレストラン。

今回はA木先生のご馳走にあずかりましたが、ちょっとランチ代をはずんでも、おいしいものを食べて、楽しさの余韻の中で話も弾み次回を楽しみに散会できるとしたらこれこそが脳の活性化です。

このフマネット運動の指導のために、外部からいらっしゃったM田講師は、磐田市の御厨交流センター指導員といわれました。フマネット運動のインストラクターとしては磐田市で唯一人。HPによれば、全国でもまだ5379人ということですから、あたらしいものにアンテナをたてることができるタイプとお見受けしました。
余談ですが、このM田先生の趣味は紙工作。どういうことをなさるのか聞いてもよくわかりませんから、画像を送っていただきました。おとぎ話や昭和の一シーンを切り取って、それを立体的に作り上げるというものでした。モデルはなく「そこを自分で考えるのが楽しいんです」この意欲といい、発想といい、前頭葉機能が豊かな方だとよくわかります。
作品紹介…80センチくらいのコンパクトな大きさらしいです。どの小物ひとつもすべて紙から手作りなさってる!

この講師派遣に関しての費用負担など伺わずじまいでしたが、大きな費用が掛かるわけではありません。
脳機能が正常な高齢者が集まるほど、指導者の資質でその教室の楽しさが変わります。指導者はまず自分が楽しめる人であることが求められます。前頭葉が豊かで、発想が効き、工夫ができ、機転も利く。準備も万端なら臨機応変に対処もできる。明るく楽しい雰囲気を醸し出せる…M田先生はまさに適任者でした。

結論を先に言いましょう。
自主的な脳リハサロンがうまく機能するには、どうしてもA木先生のような企画ができるアイディアマンとM田先生のような明るい柔軟な指導ができる人が必要です。自前で揃うならばもちろんそれでいいのですが、そこを行政が後押しすることで、信じられないような費用で認知症予防ができることを知っていただきたいと思います。

エイジングライフ研究所が全国に展開した認知症予防活動は、まさにこの考えに基づいていました。行政主導で脳機能が正常な高齢者を対象にした教室を半年から一年開催し、その後は自主活動。ただし年間計画作成時の手伝いや講師派遣についてはフォローするというものでした。
特筆すべきは「脳の健康」を保持するということが教室の目的ですから、脳機能検査(脳のイキイキ度チェック)を教室の前後に実施することが必須条件であったことでしょう。


いずれにしても、正常高齢者に対する脳活性化の働きかけは、そのもたらされる内容も素晴らしいものですが、対費用効果も無視できません。
なんと政府は来年度からの認知症対応国家プロジェクトとして、「認知症克服へ200億円超。創薬や神経再生研究強化」へ舵を切ったそうです。マーモセットを使って研究をするそうですが、マーモセットには前頭葉機能はないのです。この200億円の認知症施策。200億円をかけて認知症治療薬を開発する?その前に認知症を予防する、それも正常者を正常者のままに長生きをしてもらうような政策を考える人はいないのでしょうか?
温もりの家のアプローチにある、地元高校生の壁画とミニ盆栽

山形県米沢市通所介護施設「なごみの部屋」の我妻さんと2-3日前に話しました。
我妻さんの取り組みのこのブログ初出は2005年11月。18年も前ですが我妻さんの思いはそこから変わっていないことを読んでみてください。

20年近くにわたって、正常者への働きかけをし続けてきた(ほとんどボランティア)我妻さんには、正常者からの認知症予防こそあるべき予防活動であるという信念ができています。しかも脳機能という物差しを持っています。
その信念のもと、米沢市に来年度の課題として相談したそうです。
「要支援だった人が一年後に要介護になることは多い。
真の介護予防のためにはまず正常高齢者を対象にすべき。
その中に要支援の人たちを入れ込むことでより効果が期待できる。
運動機能だけならば正常者でも参加できるけれども、それと同様」
行政の方には、それぞれ置かれている立場があるのはよくわかります。
「いわれることはわかるけれども、ディサービスの数が多いのでモデルとしてやれるか…」というお返事は、我妻さんの信念に対して出た精一杯の回答だったのではないだろうかと感じました。

「温もりの家 脳トレ倶楽部」による自主活動としての「脳トレサロン」は脳機能検査という物差しがあれば、間違いなくこれからの日本の高齢者対策の指針となるべきものだと思いました。
期を同じくして、「政府の的外れな指針」「実践者の持つゆるぎない自信」に触れた2023年夏の終わりでした。
by 高槻絹子

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