新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

慢性骨髄性白血病に対する説明(患者さん向け)

2012-05-19 11:04:37 | 医学系

さて、先日より書いております「患者さん向けの説明)シリーズ

 

本日は慢性骨髄性白血病(CML)について、初診の患者さんに僕が話す時の内容を書いてみようと思います

 

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○○さんは先日、白血球などが多いということで当科を紹介受診されました。

採血では白血球が23000/μlと上昇しており、ヘモグロビン(Hb)が15g/dl、血小板が65万/μlと白血球増加、血小板増加を認めました。この白血球の中身に関してですが骨髄球などの血液中にはめったに出てこないものも認めますが、特徴として好塩基球という普通は1%くらいしか認めないものが8%と多く認められ、好酸球も10%と多いです。

この採血結果から慢性骨髄性白血病という病気を疑い、精密検査を行ってきました。

 

結論を申し上げますと慢性骨髄性白血病という診断になりました。これから病気に関して、治療法に関して説明してまいります。

 

慢性骨髄性白血病は造血幹細胞と言いますが、血液を作るおおもとの細胞に異常が生じ起きる病気です。この異常は遺伝子レベルで分かっていて「bcr-abl」という異常なたんぱく質ができることで生じてしまいます

この異常は名前はどうでもいいのですが染色体という遺伝子の船が壊れて、他の船の頭と船尾(おわり)を交換してしまったことで起きます。(船の絵と染色体の絵をかいて、交換してみせる)この9番と22番という染色体で交換が起きてしまい(フィラデルフィア染色体:Ph染色体と言います)、「bcr-abl」という異常な遺伝子ができます

 

この遺伝子の出す命令は「増えろ~、増えろ~。とりあえず増えろ~」という命令です。この病気になったばかりの時は「増えろ」「増えろ」と言われているだけで、機能的には正常な白血球が増えてきます。もしかしたら普通の時よりも抵抗力はあるかもしれませんね。

ただ、このまま放っておくと白血球は10万、20万と増えていってしまいます。この際限なく増えていくうちに「追加の異常」が加わってきます。この遺伝子にひずみが生じて、今後話をする「特効薬」が効かなくなることもありますし、他の遺伝子異常が加わり「正常な白血球」が作れなくなる。正常な白血球が作れなくなったら、それは「移行期」「急性転化」などと言いますが、急性白血病の状態に移行し死亡に至ります

 

今回、現在での骨髄の状態を把握することも含めて、骨髄穿刺を行い先ほど申し上げた遺伝子の変異がないか調べたところ、この異常を認めました。この時点で慢性骨髄性白血病と診断いたしました。

今の時点では「急性白血病」の細胞の増加は認めていません。慢性期のCMLでよいと考えます。

 

この病気の治療ですが、2000年までは若い人だけが同種骨髄移植で完治するだけで、ほとんどの患者さんは3年ほどで急性白血病に進行し死亡していました。2001年にグリベック(イマチニブ)という薬が発売され、これによって多くの人(8割~9割)の方が長期生存(IRIS試験という有名な試験で全生存率85%、病気が進行せずに生存している割合が92%:他の病気が原因で死亡がいてCMLでの死亡は7%)されます。

 

ですのでこのグリベック、もしくは現在は最初から使用できるタシグナ(ニロチニブ)などの第2世代と言われる新薬(もう新薬ではないなw)が使用できます。

「どっちが良いのでしょうか?」

現在タシグナという新しい薬で治療をし、早期にいい状態に持っていく方が良い結果をもたらすことが報告されています。個人的にも数人の患者さんに使用しましたが、タシグナの方が良い印象を持っています。

しかし、タシグナの方が高い薬です。また、副作用なども違うのでそういったものも使用するかどうかの検討材料になります。

 

少し説明を続けていきます。

これらの薬剤は先ほど言った「bcr-abl」というもの(本当はその遺伝子産物)に引っ付いて、働かせなくします。そのため「増えろ~」という命令が来なくなり、病気の細胞は減っていきます。ただ、この薬で今の時点では(2012年現在)すべてのがん細胞を殺しているかどうかと言われると、殺していない可能性が高いと考えられています。実際に非常に良い状態、検査ではどれだけ細かく調べてもわからないくらいの状況の患者さんに対して「薬の内服中止」をすると半分以上の方が再発してしまいます。

ですので、今の時点では薬を止めることができるとは言えません。ただ、よい情報としては一部の方が再発なく中止できているので、さらに医療が発展すると「止めることができる人たち」というのが判明してきて、薬を止めたりできるようになるかもしれません

どちらの薬を使用するかは、この後選択するとして治療のやり方に関して説明していきます。やり方と言っても内服治療ですので、基本的には評価の仕方です。

 

この病気には3つの目標があります。

1つは血液学的完全寛解と言いますが、見た目が正常になるかどうかですね。先ほども言いましたが、最初に白血球などが多くなっていて、その中身に好塩基球や好酸球などの割合が多くなっていました。これは普通の人ではありえません。これが普通の人と同じような血液の数値になり、なかっも正常な内容になるかどうか。これが第1の目標です。これを治療開始3か月で達成するというのが目標です。仮に達成でいそうになかった場合は、他の薬剤に変えます。

2つ目は細胞遺伝学的寛解と言っていますが、例の異常なPh染色体と言われるもののパーセンテージを調べていきます。血液中に出てくる白血球の中のがん細胞の割合を見る検査ですね。この病気はこの異常によって引き起こされていますので、これが多いか少ないかがわかれば、病気の治療評価になります。0%~100%までありますが1年以内に0%になるのを目標にしています。細かいことを言うと半年で35%以下が望ましいとか、半年の時点で減ってこないようであれば治療薬は変更するなどがありますが、細かいものはこちらで診ていきます。すなわち第2段階は数値で診れるもので1年以内に0%にしてしまいたいというのが目標です。

3つ目はこの目標が達成できた後に、血液の中を流れている遺伝子そのものをはかります(分子生物学的寛解)。血液の中に出てくるがん細胞は0%ですが、骨髄の中などに隠れているわけです。そいつらが存在しなくなれば血液の中からも「遺伝子」そのものが消えてなくなると考えられます。実際は先ほども言いましたが「検査の限界」がありますので、本当に0になったのか、まだ検査の限界を下回ったが存在しているかはわからないわけです。まぁ、難しい話は置いておいてより細かい検査があるわけです。これでMMR(Major molecular response)というものが次の目標ですが、日本ではCML-Ampという測定法をつくところが多いのですが、これで100未満になるのが目標です。

これはさらに今では5未満まで測れるのですが、5未満になってもまだ癌細胞はいると考えられます。研究室レベルで行うRQ-PCRやNested PCRなどで陰性でComplete molecular responseと言いますが、現時点での最良の評価となります。ただ、これを達成してやめても半分の人は再発してしまうので、より良い評価法を作ることは大きな意味があります。そういったものができるまでは僕は辞めずに飲み続けることを勧めます。

 

これから薬を使用してこの目標を達成に行きます。

先程も申しあげましたが使用できる特効薬は昔からあるグリベックと、新薬の部類に入るタシグナ、スプリセル(ダサチニブ)があります。グリベックは昔からある薬ですが、効果は後者2つより弱く、副作用として皮疹、浮腫(流涙など含む)、こむら返り、血液毒性などがあります。癌細胞が多いうちは「皮疹」はよく出てきます

 

また、血液毒性というのはほかの薬でも出るのですがイメージしてみてください。今は骨髄の中に癌細胞ばかりです。先程も血液の中に癌細胞がどのくらいいるかを第2段階で評価するといいましたが、がん細胞はいっぱいいます。それを押さえつければ、今までいた正常な細胞が増えてくるまで血液って減りそうにありませんか?体の中の血液の作る能力の95%が癌細胞、残りの5%が正常な血液だとすれば、正常な血液が工場を奪回するまでの間は血液の産生能力は落ちます。ですので、薬を使用し始めたばかりの時期は血液は減りやすいです。ですので、この副作用などを見ながら調整をしていきます。薬をいったん休薬して、再開して・・・などですね。

 

一方タシグナという薬は副作用は少ない印象があります。しかし、心電図におけるQT延長。血液検査の膵酵素、肝胆道系酵素の上昇、ビリルビンの上昇などを認めます。ほかに血糖値が上昇しやすいという副作用があるので、糖尿病のある方は使いにくいかもしれません。あと、時折ですが頭痛が生じたりすることがありますが、使用しているうちに頻度が減ってくる印象があります。

この薬は初発の時期から使用することで24か月の時点での改善率はグリベックより高いことが示されています。

 

もう一つのスプリセルという薬剤ですが、この遺伝子を抑制する力は最も強いです。ただ、統計的にはイマチニブと差がつかなかったこと、副作用が出血や胸水貯留、など様々なものがあります。基本的に最初に使用するのはタシグナを使用するか、グリベックにするかを考えています。

 

「どちらがよろしいでしょうか?」

実はどちらの薬も非常に高価な薬です。しかし、今ではグリベックは400mgでないと高額療養費に引っかからない人が出てきたりしています。実際、400mgではなく、300mgだったり300mgと400mgを交互に使用するなどでちょうどよい人もいます。

タシグナやスプリセルは高額療養費に確実に引っかかりますので、そういう意味でもタシグナの方が良いかもしれません。ただ、副作用がすべての薬剤で違いますのでそれらを評価してから薬剤の選択をしましょう

関係ないと思われるかもしれませんが、そういうことで心電図検査や胸部レントゲン写真など、いくつかの検査を追加で行わせてください。それをもとに治療法を決めて、当初は2週間おきくらいに受診していただき、安定したら1か月おきと伸ばしていきましょう。

「わかりました」

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だいたい、こんな感じですね。30分は必要です。長い人だと1時間近く(汗

まぁ、がんの告知を10分でやってほしくはないでしょうが・・・。

 

だからいつも自分の外来日以外に外来を設定しているのですが・・・。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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それでは、また

 


 

2017年にアップデートしました

 

僕のCMLの説明の仕方(患者さん向け) 

 

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校正印刷会社の胆管癌発生問題:疫学解明のためにもきちんと調べてほしい

2012-05-19 10:55:23 | 医療

こんにちは

 

やはり昨日は疲れていたのか、起きたら9時半でした…(汗

こういう日もあるのだな~と反省。ついでに膝が痛くて起き損ねて後ろに転がりましたw

 

さて、本日はまずこちらの記事を紹介します。

 西日本のオフセット校正印刷会社の工場で、1年以上働いた経験のある元従業員のうち、少なくとも5人が胆管がんを発症、4人が死亡していたことが、熊谷信二・産業医科大准教授(労働環境学)らの調査で分かった。作業時に使われた化学物質が原因と強く推測されるという。遺族らは労災認定を求め、厚生労働省は調査に乗り出した。

 熊谷准教授によると、同社では91~03年、「校正印刷部門」で1年以上働いていた男性従業員が33人いた。発症当時の5人の年齢は25~45歳と若く、入社から7~19年目だった。熊谷准教授が今回の死亡者数を解析したところ、胆管とその周辺臓器で発生するがんによる日本人男性の平均死亡者数に比べ約600倍になった。

 校正印刷では、本印刷前に少数枚だけ印刷し色味や文字間違いなどを確認するが、印刷機に付いたインキを頻繁に洗うので結果的に洗浄剤を多用する。洗浄剤は、動物実験で肝臓にがんを発生させることが分かっている化学物質「1、2ジクロロプロパン」「ジクロロメタン」などを含む有機溶剤。会社側は防毒マスクを提供していなかったという。91~03年当時、ジクロロメタンは厚労省規則で測定や発生源対策が求められていたが、1、2ジクロロプロパンは規制されていなかった

 熊谷准教授は「これほど高率になると、偶然とは考えられず、業務に起因している。校正印刷会社は他にもあると聞いており調査が必要だ」と話す。

 元従業員らが労災認定を求めたことについて、会社側は「真摯(しんし)に対応させていただいている。個人情報などもあり、お答えできない」としている。【河内敏康、大島秀利】

 上島通浩・名古屋市立大教授(労働衛生)の話 大変重要な事例で、食事など地域性の要因も含め調査が必要だ。

 ◇胆管がん 

 胆管は肝臓で作った胆汁を十二指腸に運ぶ管状(長さ約8センチ)の器官。がんは上皮からできるとされる。胆管結石との関連も指摘されるが、原因は不明。日本人男性の年間死亡率は10万人あたり10.5人(05年)で、発生率は75歳以上で最も高い。

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労災認定云々もありますが、やはり胆管癌という稀な疾患が一つの会社でこれだけ発生したのは偶然とは思えないです。

 

もちろん有機溶媒が関係しているかもしれませんが、さまざまな要素を考慮して調べていく必要があります。これを調べる必要があるのは「労災認定」よりも「胆管癌発生の疫学解明」は重要だと思うからです。

 

印刷会社の労災認定とは別にきちんと調べてほしいところです。

 

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