こんにちは
コメントでB型肝炎ウイルスのキャリアに関して説明をということでしたので、簡単に書いてみます。
今回はたまたま別の病気で受診した方にしましょう。僕の経験では・・・、やはり少し高齢の方ですね。検査したことがなくて、大きな病気になったのが初めてという方。
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「○○さんは今回、××が疑われて当科に紹介になりました。この病気の診断の際に今後輸血をする可能性などを考えて、肝炎ウイルスなどの検査をさせていただきました。その際にB型肝炎ウイルスが陽性になりました。」
「私は肝炎なんですか?」
「いえ、肝炎は起こしておりません。B型肝炎ウイルスはウイルスが肝炎を起こすわけではないのです(肝臓に感染しますけどね)」
「意味が分かりません。どういうことですか?」
「少し細かく説明していきますね。B型肝炎ウイルスというのは肝炎を起こすウイルスと言われていますが、実はウイルスが感染して肝臓を壊すのではなくて、ウイルスを殺そうと感染した細胞ごとやっつけてしまう体の抵抗力が原因で肝炎が起きます」
「まだ、よくわかりません(こういう風にいう人はなかなかいません。多分、僕のキャラクターなんだと思います)」
「まずは肝炎が起きているかをまず話をします。肝炎が起きている、つまり肝臓が壊されているかどうか…というのはAST/ALTと書かれていますが、この数値を見ます。これはげんざい、肝臓が壊されているかどうかを見る数値です。これは正常範囲です。すなわち壊されてはいません」
「なるほど、正常値ですね」
「難しくなるといけないので、覚えなくてよいのですが実は肝硬変になると『壊れる細胞』がなくなってしまうので、やはり正常値になったり、壊れる量が減ったりします。しかし、その場合は肝臓の機能が低下しているはずですが、この総ビリルビン(T-Bil)やアルブミンというたんぱく質、PT活性と書かれていますが肝臓で作られている血を止める物質はいずれも正常です。すなわち肝臓の機能は正常なのです」
「なるほど、じゃぁ安心ですね」
「いえ、少しだけ気にしていただかなくてはならないことがあります。肝炎が起きていないことは納得できましたでしょうか?」
「大丈夫。納得したよ」
「しかし、B型肝炎ウイルスは存在しています。B型肝炎ウイルスは通常、生まれてしばらくしてから(思春期以降は急性肝炎と言いますが)の感染は急性肝炎の形をとります。それで肝炎ウイルスを排除しきってしまうことも多いのですが、慢性肝炎になる方もいます。怖いのは劇症肝炎と言って命に係わるパターンですが、いずれにせよ肝炎を起こすか起こさないかは、どの時期に肝炎ウイルスに接触したかということが重要になります」
「その説明は必要ですか?」
「できれば納得できるように説明させていただきたいのですが。状況によって我々血液内科の医師は免疫抑制剤や抗癌剤などを使用しますので、非常にこの話は重要になります。人は生まれたときにB型肝炎ウイルスに接触すると「自分の一部」と思ってしまい、攻撃しなくなります。専門用語では免疫寛容と言いますが、○○さんの防御機構はB型肝炎ウイルスを敵と思っていないということです。だから肝炎が起きないのです。」
「なるほど」
「B型肝炎のウイルスが持続感染している人を『キャリア』と言いますが、○○さんのように肝炎を起こしていないキャリアの方を無症候性キャリアといい、全体の9割はこっちです。残りの1割の人は慢性肝炎の状態にあり、肝硬変へ進んだりします。B型慢性肝炎の状況であれば専門医にいろいろ話を聞いていただき、治療することになると思います」
「じゃぁ、私は安全なんですね?」
「無症候性キャリアの方でも実は肝細胞がんが稀に発生します。0.1~0.4%/年と言われていますが、要するに一定の確率で肝細胞癌が発生する可能性があります。それは考慮しておく必要があります。一度超音波検査などは行ってもよいかもしれません」
「慢性肝炎ではないけど、無症候性キャリアで、少しは肝細胞がんの可能性があると」
「そうですね。全くの0とは言えないです。生活上のことを申し上げますと運動や食事の制限は全くありません。自由にしてよいと思いますが、血液などを介して他人に感染させる可能性がありますので、そこは考慮するべきだと思います」
「孫などに感染させたくはないのだが?」
「お年が1歳未満だと先程の免疫寛容が生じる可能性がありますので、血液などが付着する可能性のある行為は控えたほうが良いと思います。もし、もう少し上のお子さんであればワクチン接種を行うという方法もあります」
「なるほど」
「いずれにせよ、○○さんはB型肝炎ウイルスの感染はありますが、それらによって今悪いことが起きているわけではないのです」
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医療行為というのは患者さんに対してメリットがあるかないかで実行するかを決めます。実際にB型肝炎の抗ウイルス薬というものはありますが、慢性肝炎の患者さんならともかく一般的には無症候性キャリアの方に使うことはないです。
何故かというと無症候性キャリアの方は何も悪影響を与えられていないので、治療を行うとそれによりメリットはほとんどなく、デメリットは大きなものが(副作用が)出る可能性があるからです。
ちなみにHTLV-1キャリアの方も将来的にATLLを発症する可能性があるからと言って抗ウイルス薬を飲むことはないですよね?
肝細胞癌に関しては難しいのですがB型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスでは少し機序が違うのです。B型肝炎ウイルスはDNAウイルスであり、C型肝炎ウイルスはRNAウイルスに位置付けられます。DNAウイルスは細胞に入ってヒトの細胞のDNAの中に割り込んで増殖します。割り込む位置が悪いと肝細胞癌が出現するという、運の良しあしとしか言いようのない発症機序です。
それ故慢性肝炎の人も、肝硬変の人も(こちらは無症候性キャリアより確率は高いです。C型と同じ機序もあり得ますので)、無症候性キャリアの方も肝細胞癌を発症する可能性があるわけです
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「我々が今後行う可能性のある治療は抵抗力を下げる治療が入っています。免疫力が低下した後に再び免疫が高まってくると、突然『こいつは敵だ』と認識することがあります。特にリツキサンという悪性リンパ腫の薬を使用したりするとB型肝炎の再活性化により劇症肝炎が発生して死亡することがありますので、そのような治療を行うときは治療開始から治療後半年、もしくはそれ以上の間抗ウイルス薬を使用します」
「なるほど、よくわかりました」
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B型肝炎ウイルスキャリアで無症候性であれば経過観察だけで、細かくは存じないのですが半年~1年程度の間隔で経過観察をしているのではないでしょうか?
HTLV-1の経過観察も同じようなものですので。
ですので一般には無症候性キャリアであっても定期受診はすると思うのですが、それだけの目的で受診した人を僕は担当していないので(上記のようなパターンは多いのですけどね)、このくらいの説明でご容赦いただければと思います。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。