風のささやき 俳句のblog

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扉【詩】

2025年02月06日 | 

「扉」

人の心を開くとは
夜空に散りばめられた、硬い鉄の扉
その一つ一つに、どんな人が住むのか
知らずとも押してみる、チャイムの呼びかけ

いつでも、遠いところにある
つかめない距離感、立ち眩みがする
ぎゅっと握る、こぶしは汗ばんで
チャイムを押す指先には、力を入れて
(心も、縮こまって、汗をかく)

すると、どの扉からこぼれ、流れ星
瞳の中に、青い糸を縫いつけるように
真っ逆さまに、暗闇の静けさに
落ちて、燃え尽きた

それは、どんな、思いの欠片
長い時間、人の胸に、閉じ込められて一塊となり
味わいたくなくとも、何度も味わって
人知れず、夜空に流れ、消えた

沢山の思い、僕の知らない悲しみ
諦め、不安、寂しさ、苦しさ、焦り、憤り、暴力
僕は、そこで指を止めて、言葉を失うのだ
沢山の扉を見上げながら

チャイムを押せば、迷惑顔で
出てくる眠たげで、怒り含む人の目に向かい
その先、何と挨拶をすれば良いのか
僕がどんな言葉で、その扉の向こうの人と
つながればいいのか

夜の扉の中に、ひとり物思いにふける
人たちの、胸の内、かき回すことなく
チャイムで、眠りを妨げずに

そうして、僕自身も、触れられたくない胸の内
穏やかな夢に眠りたいと
もう、扉の向こうの誰かを
呼び出そうともしなくなって

夜空から、扉が、また一つ、また一つと消えて
やがて真っ暗な闇に塗りつぶされる
僕は地上からその闇夜を、見上げるばかりだ



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