「名前を」
# 1
金色の涙を流せと
秋が命じたから
木々はそれぞれの色に
葉を染めて
一斉に風に散らすのだ
ハラハラと
時折は乱舞 千々に乱れて
何故にそんなにも従順に
従う必要があるのだろう
秋の声に しかし僕らは
その声を 内なるものとして
宿している 自分を知ることになる
# 2
それは寂しさ以外の
何物でもない
終わりを実感として
足音として確かに
耳にする僕は
あなたの名前に 殊更に
すがりたくなる
あなたの名前だけが 暗闇に浮かんで
その名前を ささやく
まるで 水の中に
引きずられるものの あがき
# 3
けれど その人の名前を呼ぶこと
そのためにどれだけの
長い時間を耐えて
透き通った声で
何も求めず
呼びかけることができるのか
求めるとしたならば
その最上の笑顔
ただ嬉しく笑う
それは 白いカサブランカの
香りがする
その瞳に 見入りたい
けれど 僕の声はしわがれて
# 4
秋
人はそれぞれの戸口に立ち
秋
それは戸口を
激しく打ち鳴らす
秋
その入り口に人は迷い
秋
その訪れに人は冬支度を始める
できることならば成熟の秋として
戸口を金色に染め
金色の微笑を浮かべ
金色の羽根を生やし
金色の心をあなたに捧げる
捧げ尽くす
ただそれだけを喜びとして
# 5
何も言わずに
側にいてくれる人の温かさ
そのありがたさに 頭を垂れる
泡になって消えてしまう
僕をこの世につなぐ
その名前を
まるで初めて
呼びかけるように
呼ばせて欲しい
嬉しい
笑顔が
愛しく
眩しく と
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