「海辺の午後に」
随分と遅い時間に目を覚ます
眠りつくした夜の長さ
いくつの夢を生きたのだろう
そのすべてが思い出せない
頭の芯の気怠さには珈琲の香り
陽射しに膨らむカーテンを開けると
海原にはもうたくさんの
光りが舞い降りている
餌を啄ばみにきた小鳥の大群のよう
空から押し寄せる羽ばたきに
海は戸惑っているのだろうか
その割には呑気な顔をしている
気の長い老人のようだ
いつまでも繰り返す
その呟きは貝殻の奥に
閉じ込められた古の物語
白い鴎が飛んでいた空は
もう雲さえもいない
魚の群れでも見つけて
まるで帰ってくる気配もない
その広いキャンバスを飾るとしたら
何が一番似合うのだろう
桜貝をはめ込めば
きっと素敵なコントラスト
波が触れようとする砂の城は
君との夢の住まい
そこには花束をおこう
薄いピンクのオールドローズ
匂い立つカサブランカの大輪も
きっと君に似つかわしいと思う
そんな戯れにつきあってくれる空を
やがて周回遅れの能天気な雲が横切る
あまりにもありきたりな一日
それでいて満ちたりた午後
繰り返す空色の波の音
思いもただ穏やかに漂うだけのもの
昼間には
休憩を与えられている灯台は
岬の先で軽くまどろんでいる
まるで僕のあくびがうつったようだ
貝殻を探す子供の手には白い化粧砂
丘の上のオレンジが潮風をすっぱくする
生垣の赤い花にミツバチは羽を休め
透明なコップの冷たい水を飲み干して
あと何が生きてゆくために必要だろうか
長い坂道を上って
買い物帰りの君が
ドアの呼び鈴を鳴らす
フランスパンを片手に抱え
潮風を背中に連れて
陽射しで一杯の笑顔を見せて
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