嘗て「幻の名盤読本」に掲載された本作のポイントと言えば、コルトレーンのグループに参加して間もない頃のE・ジョーンズ(ds)の存在。期待の度が大きすぎるのか、或いはこちらの聴き方の視点がずれているのかもしれないが、バップを原理基調とするハリスとヴァーサタイルといえども革新的なドラミングの道を進み出したエルビンとは自ずと接点に微妙ながらズレを生じ始めている感は否めない。そこが狙いだったかもしれないけど・・・・・
改めて聴き直すと、最初に比べ印象は良くなっているけれど「幻」の冠が重荷になっている気は抜けない。ただ、聴き物の一曲がある。B面の二曲目、古いスタンダード・ナンバー”It's The Talk of The Town”。「あなたに捨てられた噂が街中に知れ渡り、恥ずかしくて外に出られない・・・・・・」という破局ソング。ヴォーカル向けと言うわけでもなさそうですが、インストではあまり取り上げられていない。
曲想に合わせ、ややメランコリックなイントロで入り、テーマを裏切られた娘の「悲しみと怒り、失望感」を代弁するかの如くしっかりとしたタッチで弾くハリスにぐぐっと引き込まれる。そしてソロ・パートではまるで傷ついた娘の心を優しくいたわる父親の心境を朴訥と弾き語るハリスに、うぅーん、ほろりとさせられる。
”It's The Talk of The Town”、邦題は「街の噂」。なお、この名演がファンの間で「うわさ」になったことは未だかって一度もない。
この‘It's The Talk of The Town’は、
‘Ledies and Gentlemen,Now,we'd try for you,a very pretty old ballad which you don't hear much anymore,It's The Talk of The Town’と、C・ホーキンス自らのアナウンスから始まる62年、NYのクラブ「ヴィレッジ・ゲート」での演奏があります。通称「ジェリコの戦い」で人気のライブ盤です。