新しいグラブは、手になじんで具合よく使えるまでに時間がかかります。
時が経てば熟成していくものではありませんから、過ぎてゆく時間だけではなく、手を入れてボールが当たってだんだん形ができていく過程が必要です。
この、手を入れるということには、中に手を差し込むことと、やわらかくなってほしいところにあぶらを滲みこませるなど、なじみやすくしていくことの両方の意味があります。
企業で新人を育てていく過程に、どこか似たところがあります。
新しいグラブの使いにくさが、使う人に癖をつけてしまうこともあるでしょう。
その癖が、理にかなった癖ならよいのですが、身体のどこかに無理のかかる癖の場合には、技の伸び方や健康状態にも良くない影響を与えます。
それならば、グラブが新しいうちに使い込んだかのようなカタをつけてしまおうと、湯揉み型付けやオイル加工が施されます。
新入社員の集中研修のような、即戦力の付加策です。
ものごとのカタのつけ方には、こういう作り上げるための型つけと、散らかっていたもの引きずっていたものを、整理したり廃棄したりする片付けとがあります。
そのほかにまだ、恰好をつけるだけのカタつけもあります。
呼び方に恰好だけ整えて、もう一つの片付けをやってしまうマジックのような急場しのぎもあります。
「構造改革型リストラ」と呼ぶ、採算の合わない部門や働き具合の気に入らない社員を削り落としていく戦略がその一例です。
将来のためにと言葉は添えられていても、3年5年ぐらい先しか見ていない将来では、時間の向こう側というだけのことです。
リストラクチャは、構造改革という大仕事の一手段であるのに、構造改革を型名に仕立てて鼻先にくっつけた「構造改革型リストラ」は、自己矛盾の看板文句でしかありません。
部署を削り、人を追い出して、その分の仕事を押し付けられたのでは、見こまれて残った人はたまったものではありません。
これはいい手だと、つい誘いに乗ってしまえば、おそらく少し長めの将来には、必ず破綻があらわれ、どこかに吸収されるカタなし企業になってしまうことでしょう。