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レンヌ・ル・シャトーの秘密




南仏のこの小さな村の名前を聞いたことがない人でも、この村にまつわる「謎」「秘密」を聞けば、「この村の話、聞いたことある!!」と感じるに違いない。

今からその話をしよう...


1885年。
カルカッソンヌから南へ50キロほど、レンヌ・ル・シャトー(Rennes-le-Chateau)という丘の頂の小さな村に33歳の神父ベランジェ・ソニエールが赴任してきた。
ちなみにこの村の現在の人口71人。南仏にはこういった村がたくさんある。

着任するや、彼は西ゴート族(フランスへは5世紀ごろに移動して来たゲルマン民族)の聖地の上に建つ、マグダラのマリアに捧げられた小さな教会(1059年献堂)を熱心に修復し始めたという。


今も残る彼の修復した教会は、はっきり申し上げてゴタゴタと稚拙で趣味はよろしくないが、教会に続いて田舎では贅沢なほどの庭園や塔や自宅まで建設してしまった。

当時、彼は裕福どころか困窮しており、神父の薄給では誰が計算してもどだい無理な出費であった。
彼自身が書き残した数字によるとその額20万ルーブルと言われている。


そして噂が広がり始める。

彼に分不相応の出費が可能であったのは、教会を修復作業中にカトリック教会の礎を揺るがすような秘密を発見し、口止め料として大金を与えられたからだなどと。




秘密とは例えば

キリストの墓の場所を暗号化した文書(キリストは復活して昇天したことになっているので、墓が実在しては教会的には困る)。
マグダラのマリアがイエスの血をつなげる「聖杯」として、イエスの子を孕っていた証拠。

カトリック教会によって異端認定された、カタリ派の財宝。
異端のアリウス派キリスト教を信仰していた初期メロビング朝の財宝。

蓄財したテンプル騎士団(王よりも富み、フィリップ4世によって滅ぼされた)の財宝。
十字軍(十字軍には金がかかったし、略奪も繰り返された)の財宝...などなど。

ある時代に強大だった組織や人物が一夜にして滅ぶと、必ず隠し財宝の話や、死んだはずの人物は実は逃げ延びて別の土地で寿命を全うしたなど、そういう話になるのだ。
それが人間の情というものなのだろう。


おまけに

まだ発見されていない秘宝が、この村の近くにあり、暗号を解読することによって場所がはっきりするだの
シオン修道会という秘密結社の陰謀がだの
ソニエール神父の秘密を知る人はみな事故や自殺に見せかけられて死んだというのまで。


まあとにかくカラフルでめちゃくちゃ楽しくなってくる。



ここまでの話で「それってダン・ブラウンの『ダヴィンチ・コード』?」と気がつかれた鋭い方もおられるのでは。
正解! 
この話にはおひれがつき、『ダビンチ・コード』のネタ本になっている。




トム・ハンクス主演で映画化された『ダビンチ・コード』以前に、ソニエール神父が祭壇に隠された羊皮紙の文書を発見し、教会の墓地の墓石に刻まれた暗号を見つけ、カルカッソンヌで司教代理に面会したとか、あるいはニコラ・プッサンの有名な絵画に暗号が隠されているとか、レオナルド・ダヴィンチがシオン修道院のメンバーだったとか、メロビング朝の血統は今も続くとか...

そういう本がいくつも書かれ、テレビで特集が組まれたりした。

実際にこの村を訪れて宝探しをする人は引きもきらず(教会の床下を爆破した人もいるそうだ)、マニアや観光客は今もものすごく多いそうだ。
詳しい話はたくさん出版されている本を参照されたし!


オチとしては、最初に本を書いた人物が、最終的に全部ネタであったことを認めているのだが、それでも「無理やりでっち上げと認めさせられたのでは」...と、いくらでも言えるのである。


最初の本を書いたこの人物からして、自分こそメロビング朝の正当な後継者であるとまで豪語した誇大妄想的な山師的な人物である。

心理学的にも、「自分が不当に取り残されている」という感覚を持っている人は陰謀論を信じやすい。
また、社会的敗者の側にいる人は、陰謀論に加担することによって、「自分は真理を知っている」という優越感を得、勝者より上の立場になったような気分になれる。

そして陰謀論は社会の不安を解消して、世界を理解しているような錯覚を可能にする、とても経済的な思考方法だ。

実際は世界は複雑だ。
不確実性に満ち、人間の理解も説明も行動も及ばない。しかしそこで陰謀論を採用することにより、複雑な思考プロセスにかかる負荷を軽減できる。
陰謀論は安上がりな思考法なのである。


おもしろいのはおもしろすぎてわたしもめちゃくちゃ興味ありますよ! 

財宝も秘密結社も、隠されなければならない秘密も何もなかったとしても、こういうネタはお宝そのものである。
わたしに才能さえあれば、またひとつ「新しい秘密」を「発見」したり、「暗号」を「解読」して、一山当てるのは不可能ではない。
実際、昨日書いたサド侯爵のネタで何かでっち上げられないかしら...と考えたもの(笑)。


謎解き、暗号、秘密結社、秘宝、宇宙の摂理、陰謀論、人間ってこういうのが大好き...

人間は世界を「説明」せずにはいられないのである。
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