(口頭弁論前の決起集会)
4月16日、知事の辺野古埋立承認の取り消しを求める訴訟の第1回口頭弁論が那覇地裁で開かれた。傍聴席は28席だけだったが、原告・支援者ら150名ほどの原告支援者が集まった。5倍以上の競争率だったが、幸いなことに抽選に当り、法廷に入ることができた。
原告側代理人が訴状、申立書の要旨を口頭で陳述した後、原告団代表の安次富さんと地元でエコツアーガイドをしている坂井さんがこの裁判に寄せる思いを口頭で述べた。それぞれの陳述後には、傍聴席から大きな拍手が起こったが、今日は原告らの熱気に押されたのか、裁判長は制止しようともしない。
原告の意見陳述が終り、次回の弁論の日程に入ろうとしたとき、弁護団事務局長の三宅弁護士が立ち上がった。「被告答弁書は、国の主張であれば分かるが、これは本当に県の主張なのか。今までの県の説明とは全く違うではないか? 県はこの答弁書をあくまでも維持するつもりなのか?」と切り出し、答弁書の次の部分を問題とした。
・「国は公有水面に対する支配権に基づいて公有水面の一部につき適法に埋立をなしうる。」、「公有水面を埋め立てるかどうかは、本来、国の判断に委ねられるべきものである。」(答弁書P10)
・「国が知事の承認を得ずに埋立を行った場合であっても、知事から是正を受けたり、罰則を適用されることもない。」(同P10)
・「知事が承認を行わない場合には、国の知事に対する是正の指示、係争処理委員会による審査、国による代執行などで解決される。」(同P11)
・「国は本来、公有水面に対する支配権を有しており、この支配権に もとづいて公有水面の一部について埋め立てを行う権限を有してい る。」(同P12)
・「本件承認処分は、飽くまでも本件埋立事業に係るものであり、本件埋立事業後に建設される飛行場の運用によって生じ得る生活環境の被害とは直接のつながりがない。」(同P26)
まさに、地方自治を放棄したもので、「沖縄県は、国の決定とご指示に従います。何の文句も言いませんし、言えません。」(三宅弁護士)という宣言に他ならない。
また、執行停止の申立に対する県の意見書には次のような記述がある。加藤弁護士も立ち上がり、特に騒音被害を否定した部分について鋭く追及された。
・「普天間飛行場周辺の住民は、騒音等にさらされ続けてきたものであって、早期に騒音等の問題を解消することが喫緊の課題となっており、国において、これに対応するためには、速やかに本件埋立事業を行ったうえで、普天間飛行場代替施設を設置する以外に方法はないと判断されたものである。」(意見書P68)
・「日米両政府は現在、辺野古の代替施設建設を唯一の解決策としており、本事業の停止は、同飛行場の固定化につながることが懸念される。」(意見書P72)
・「普天間爆音訴訟も高裁判決でも、高血圧や頭痛、肩こり等のストレスによる身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛を認めるにとどめており、騒音と身体的被害との因果関係を認めたものは見当たらない。そうである以上、防音工事や金銭賠償によっても解消・軽減され得る性質の損害というべきであり、現時点において執行停止を認めなければならないような重大な損害が発生しているとはいえない。(同P71)
県の代理人弁護士は、当初、言葉を濁していたが、裁判長から促されて小さな声で「答弁書を維持します。」と答えた。
先に引用した諸点は従来からの国の主張だが、沖縄県がここまで言い切ったことはなかった。知事の「5年以内の普天間閉鎖」なども全く投げ捨ててしまっているからひどいものだ。また、1999年の県調査では、低体重児出生率の上昇などについて、県自身が「健康被害の主原因が航空機騒音である可能性は極めて高い」と結論づけていたこととも矛盾する。
さらに、被告答弁書、意見書は疑問だらけだ。たとえば、ジュゴンについて、「具体的な環境保全措置が講じられており、埋立工事の施工前後においてジュゴンへの影響についての配慮が十分になされている。」(意見書P54)、また、ウミガメについて、「ウミガメへの影響についての配慮が十分になされているというべきである。」(同P56)、さらに外来種の移入について、「事業者によって適切な対応が執られることを確認している。」(同P57)と断言している。しかし、これらについては県の環境生活部長意見(2013.11.29)でも、「不確実性の程度が大きい」「適切であると判断することができない」実効性が確認できない」「根拠が示されていない」(ジュゴンについて)、「効果の程度が不明」(ウミガメについて)、「具体的に示されていない」(外来種について)などと指摘していたはずである。また、知事の埋立承認書でも、「特に外来生物の侵入防止対策、ジュゴン、ウミガメ等海生生物の保護対策の実施について万全を期すこと。」などの「留意事項」をつけていた。被告答弁書・意見書は、これらの諸点を全て問題はないとしたものだが、今までの経過とは全く矛盾する。
この日、被告席には県内の弁護士4人と県職員ら以外に、法務省から派遣された訟務検事12人が並んだ。県の答弁書、意見書もほとんど全てが法務省職員が書いたものであろう。被告席には、本件埋立申請を審議した海岸防災課の職員らも同席していたが、当初、あれだけ誠実な姿勢で懸命に職務を続けていた県職員らにとって、これだけ県の権限を無視した国の文書を県の文書として提出することは悔しくないのだろうか。
こうした今までの取組を全て放棄した県の姿勢は、今後、国の忠実なしもべとなりますという宣言に他ならない。
(県の答弁書)