なんとなくクラシテル

獣医という仕事をしている人間の生活の例の一。
ほとんどが(多分)しょーもない話。

ウサギの胃うっ滞

2024年04月19日 | 仕事

は、起きた時点でもう危ない疾患、といえる。何が危ない?命が、です。病態生理としては、要は胃に入ったものが腸に流れていかない。胃で行き止まりになっちゃって、それ以上進まない。従って食欲がパタッとなくなる。

 この時点で速攻で病院に来ていただきたいんですけど、特に初診の方はつい様子を見ちゃう。「家族」の食欲がなくて何日も様子を見るか?と不思議でしょうがないのだがなのに様子を見てしまう原因は、「便は出る」から。これは、実は盲腸に入ってる食渣が「在庫」になってて、そこから便がだらだら出てくる、という事。便も出なくなった頃はもう、にっちもさっちもいかない事態に陥ってる。

 では、胃に詰まっているものはなんなのか?一番多いのが「毛」。胃うっ滞が胃内毛球症とも呼ばれるのは、そのため。「胃内毛球症は猫にもあるのでは?」いや~~~、当院では猫で診た事1例もなし。そりゃそうで、猫はたまった毛玉を吐き戻すから。「嘔吐ができない」ウサギにしか起こらないんです。

 ウサギの胃内毛球症が起こる原因を箇条書きにすると

  1. 嘔吐できない特性
  2. 毛玉ができやすい、もつれやすくてハンパに長い毛質
  3. ヒマな生活
  4. ラビットフードの悪影響
  5. 体格(矮小)
が挙げられます。
1は前回書いた。2.は、結局「毛皮用」という家畜用途が裏目に出ている。なのに、長毛種なんぞまでわざわざ作出しちゃって、もう殺してるようなもんですよね。実際、長毛種は長生きしにくい。
3.野生のウサギって、多分年がら年中・1日24時間、気を張って生活してると思う。いつ何時、敵にやられるか分からんから。だから、身づくろいだっておそらくはマジ安全だよね、って時に集中してパパっとやってるんでしょう。なのに、ああ、ペットのウサギは安全極まる場所(しかし狭くてなにもできない)でごろごろ、なーんにもすることない、ヒマでヒマで・・・。こうなるともう、身づくろいくらいしかやることないんですよ。鳥だったら、地頭がいいので芸の一つや二つ仕込んで、というヒマの潰し方ができるのだけど、ウサギはそれもできないし・・・。
 今の換毛期はそんなわけで、1年の間で最も危険な時期といえる。飼主さん達はせっせせっせとスリッカーで毛を抜くんですけどね・・・・。
4.これも大弱りしている事なんですが。結論から言うと「ウサギにはラビットフードを与えるな」になっちゃうんです。
胃うっ滞を起こしたウサギを胃切開すると、内容物は大体「毛とラビットフードが丸まって団子状態」というもの。ここで、5の「矮小」が災いしてくる。特に小腸の口径が狭いので、毛玉を腸に送って排泄して、ができないのだ。
 ラビットフードには、この病態を警戒して「グルテンフリー」タイプもある。団子になってしまう原因はグルテンにあるのでは、というのは一理ある。でも、実際にはグルテンフリーでも何でも、毛玉はできてしまうようなのだ。ラビットフードを、あの形状に固めているなにかが悪さをしてるような気がしますけど。結局は、絶対に団子にならない「牧草」だけ食べさせてください、という事になってしまう。
 
 ところでスリッカーですが。ウサギの毛質は柔らかいので、スリッカーでないと毛を抜くことができない。櫛なんかじゃ到底無理。しかし、スリッカーにもあれこれあって
 
こういう金属製のものは、皮膚を傷つけちゃうので✖。向いているのは
または、金属製ではあるけれど
これは、先端がプラでコーティングされているので、皮膚刺激が少ない。
ウサギを飼うなら絶対に持っていた方がいい道具ではありますが、これで完全に防げるわけではない。何もしないよりマシという程度。だから、ウサギの体格は大きい方がいいんですよね。毛玉がつるっと腸に流れてくれる程度の腸口径が必要なんです、本来は。

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ウサギの消化器病

2024年04月19日 | 仕事

は、ウサギの疾患全般のうち、多分6~7割を占めているんじゃなかろうか(当院比)。飼主が比較的気付きやすいのは歯牙疾患と便秘ですけど、なんか知らんがついつい「様子を見る」人が多い。で、オダブツ、あるいは病院に来た時すでに「オダブツ寸前」という状況になってしまっていること多し。で、飼い主逆ギレという・・・・・。ワタクシどもはカウンセラーじゃないんですけど。

 草食獣全般にいえることだけれども、消化管の構造が我々人間や犬猫等々の雑食~肉食獣とは抜本的に異なる。でなければ、あんなカサカサした牧草なんかでむくむく太れる筈がない。哺乳類でいえば、牛や鹿等々のいわゆる「反芻獣」と、ウサギや馬・バク・象のような草食獣は構造が異なるのだが、ウサギの消化管を簡単な図版にすると、こんな感じ。

とにかく盲腸がでかい。腹部臓器の3~4分の1を占めている。ウサギは胃や小腸で直接草を消化できているわけではなく、一旦盲腸内の細菌でもって草の線維等々を分解する。で、それが「盲腸便」という軟便で出てくる、のをもう一回食べて(こんなことを夜な夜なコッソリやってるんですよ)それを改めて消化吸収している。小腸は非常に長い。こんな巨大な消化管を腹部に押し込めているから、腹が大きくなるんですね。ので、胸腔が常に圧迫されてて狭い。これは、手術の際に呼吸を確保するのに大きな障害となる。矮小になればなるほど、危険が増すわけ。

 もうひとつ、ウサギの重大な消化管の問題は、ズバリ「嘔吐できない」です。吐き戻しができないから、一旦飲み込んでしまった物は排泄するよりか排出方法がない。これが、ウサギの主たる消化器疾患である「胃うっ滞」の大きな誘因になってます。

また次回。

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矮小ウサギ

2024年04月19日 | 仕事

は、今や日本のペットウサギの大半を占めていて、本当に困っている。小さい治療できることはどんどん減る、という事実にいい加減気が付いていただきたいんですけども。

 アメリカでもウサギをペット目的で飼っている人はいて、ウサギの医療に関する教科書もあります。しかし、とにかくサイズが全然違う(アメリカのウサギはおおむね体重5㎏以上)から、そこに書かれている医療行為がデキマセン、ということが多いのだ。例えば採血。「耳の動静脈から採血しましょう」とか「耳の静脈で血管確保できます。そこから静脈輸液しましょう」。これ、日本の矮小種(体重おおむね1~2㎏未満)では至難の業。一番細い静脈針の直径より、血管の直径の方が下手すりゃ細いんだもの。無理に静脈カテなんぞ入れたら、その先が血行不良起こして壊死する、なんて危険すら出てくる。耳自体もペラペラで、ちょっとでも動かれたら(ウサギを完全に保定なんかできちません)針が耳を突き抜けたり、なんてことは普通に起こりえる。ウサギは、勝手に耳をパタパタ動かすことができますしねえ。これで針を吹っ飛ばして終了。も珍しくない。

 小さいことはとにかく不利を招く。消化管もそうで、これが、ウサギ特有の消化器病を招くのだ。

それは次回。

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