特に進学したいわけでもなかったが、18やそこらで働くのは御免だと考えた私は付け焼刃の受験勉強を始めるため、とある予備校の講習に参加することにした。
そこで教えていた、ジョン=レノンに似た英語の講師はゴロ合わせを使って単語を覚えさせていたのだ。
バカバカしい、付き合ってられるかと、出会うものすべてに噛みついていた当時の私は机に肘をついた姿勢のままでつぶやいた。
しばらくして受けた模擬テストの成績は、たった数日の講習で飛躍的に上がるわけなどなく、惨憺たるものだったが、聞き流していたはずのゴロ合わせに含まれていた単語だけはしっかりと覚えていて、わずかな点数はその部分だけで稼いだものだった。
それまでまともに聴いていなかった講義に、私は真剣に耳を傾け始めた。
「任天堂を するつもり。(intend)」「ギャラうんといい 保証する(guarantee)」「王子なり(ordinary)たい 普通の身。」
単語だけでなく、「提案、主張、要求、命令を意味する動詞の目的語となる節の中ではshouldを使う」というややこしい文法事項も「亭主は養命酒。」と簡単に覚えることができた。
木崎という名の講師が暗記術を駆使して行う授業の内容は面白いほど頭に入ってきた。
これなら覚えられるという確信を抱いた私は、さらに集中して授業を聴くようになった。様々なことが覚えられることで、理解が深まり、分かれば勉強は面白くなってくる。
暗記術は、タネと仕掛けがあるという意味においては「手品」である。しかしながら実際にその効果を用いることができるという点で「魔法」なのである。