或る事件(刑事でも民事でもよい)が発生し、紛争が生じたとする。これを解決するためには、まず事実を認定する必要がある。しかし、これだけでは到底足りない。解決するためには、認定された事実を法律に定められている要件に当てはめる必要がある。その際に必要となるのが、法の解釈である。
法の解釈は、大別して二種に分かれる。
通常、法の解釈という場合には学理解釈を指す。これは、法を理論によって解釈することである。
これに対し、有権解釈というものがある。これには二つの意味がある。第一に、法文またはその文字の意味を法規によって明らかにすることをいう場合がある。例として、民法第85条・第86条・第87条・第88条、刑法第245条(擬制が使われる例)がある。しかし、これは、むしろ「定義」や「用語法」の問題である。第二に、最高の権威を有する機関がなした解釈を指す場合がある。政府の解釈を指すこともある。「公定解釈」ともいう。普通はこちらの意味において用いられる。
しかし、有権解釈(とりわけ「公定解釈」)であっても、学理解釈と無関係ではありえない。むしろ、有権解釈をなす際にも、学理解釈の様々な方法を駆使することになる。
そこで、以下、学理解釈の方法を概観する。
(1)文理解釈
法の文字・文章の意味を、その言葉の使用法や文法の規則に従って解釈する方法をいう。これが原則である。刑法、租税法においては、文理解釈が大原則である。但し、文理解釈のみでは意味を確定できないことも多い。
(2)論理解釈
Aという条文と他の条文との関連、問題となっている法令・法領域あるいは法体系全体のなかでAが占める位置など、法の体系的位置・関連を考慮しつつ行われる解釈の方法をいう(後に述べる目的論的解釈と関係する)。
(3)拡大解釈
法の文言や文章の意味を拡張して解釈することをいう。論理解釈の一種とも考えられる。若干の例をあげておく。
・刑法第129条の「汽車」に気動車を含める(大判昭和15年8月22日大審院刑事判例集19巻540頁)。
・公文書のコピーを刑法第155条の「文書」に含める(最判昭和51年4月30日刑集30巻3号453頁、最決昭和58年2月25日刑集37巻1号1頁)。
・刑法第175条にいう「わいせつな文書、図画その他の物を……公然と陳列した」に映画の上映を含める(大判大正15年6月19日大審院刑事判例集5巻267頁)。
・鋤焼き鍋や徳利に対する放尿を刑法第261条にいう「他人の物」の「損壊」に含める(大判明治44年2月16日大審院刑事判決録17巻197頁)。
(4)縮小解釈
法の文言や文章の意味を縮小して解釈することをいう。これも論理解釈の一種と考えられる。例として、民法第177条にいう「第三者」を、全ての第三者ではなく、背信的悪意者や不法占有者などを除いた、登記がなされていないことを主張するにおいて正当な利益を有する第三者に限定する、というものがある。
(5)歴史的解釈
これは、或る法律・条文の成立過程、法案・理由書、立案者の見解、政府委員の説明、議事録など、立法資料を参考にしつつ、歴史的な意味内容を解明することによる解釈の方法である。この方法は重要であり、法の元々の意味を確定するためにも有効な方法であるが、立法後の社会・経済的状況の変化に対応できないこともある。
(6)目的論的解釈
法自体の目的や基本思想、あるいは法の適用対象の要請などを考慮し、それらに適合するように法の意味内容を目的適合的・合理的に解釈することをいう。上記の論理解釈と重なることも多い。
例えば、刑法においては、母体から一部露出した赤子を殺した場合には、堕胎罪でなく、殺人罪になる(日本の通説・判例)。これに対し、民法においては、原則として、母体と赤子が完全に分離した時、赤子は「人」となる(但し、民法第721条・第886条第1項などに注意すること)。これは、民法が権利義務の主体としての「人」を問題とするのに対し、刑法が「人」の生命の保護を問題とするからである。
(7)類推解釈
これまでの解釈方法とは異なり、Aという事実に関して規定する法(条文)がない場合(「法の欠缺」という)、そのAに似た性質・関係を有する事実に関して規定する法(条文)を間接的に適用する方法をいう。
類推解釈は、刑法においては許されない。これは罪刑法定主義の要請である。但し、類推解釈は拡大解釈と判別しがたい場合も多い。
これに対し、民法においては、類推解釈が用いられる場合が多い。これは、民事裁判においては法の欠缺を理由に結論を出さないということが許されず、むしろ原告、被告のいずれかを勝訴させなければならないことによる。若干の例を挙げておく。
・民法第416条が債務不履行の場合に適用されるのみならず不法行為の場合にも類推適用される場合(大連判大正15年5月22日大審院民事判決集)。
・同第94条第1項が、物の共有者の一人が他の共有者(取引の相手方ではない)と通謀して持分権の放棄を仮想した場合に類推される場合に適用される(最判昭和42年6月22日民集21巻6号1479頁)。
・同項が、財団法人設立関係者の通謀に基づいて財団設立行為(寄付行為)の一環をなす出捐行為を偽装した場合(最判昭和56年4月28日民集35巻3号696頁)に適用される。
なお、法律自体により、特定の行為について類推適用を指示する場合がある。これを「準用」という(例.民法第13条・第361条・第741条、刑法第251条・第255条)。この場合は、「準用」を指示する規定をそのまま適用するのではなく、事実の性質や関係の差異に応じて必要な変更を加えて適用しなければならない。
(8)反対解釈
Aという事実だけに関する法の規定がある場合、Bという事実については反対の効果を認める、という解釈をいう。例として、民法第3条第1項から、胎児は原則として私権を享有できないとする解釈があげられる。また、民法第85条についても反対解釈が可能であるが、この場合は類推解釈が可能な場合があり、現に判例で認められている(電気など)。
(9)勿論解釈
Aという事実だけに関する法の規定がある場合、Bという事実についても同じ効果を認める、という解釈をいう。
以上、法の解釈の方法をあげてきたが、刑法などの刑罰法規については類推解釈が禁じられる―但し、類推解釈か拡大解釈かが判然としない場合もある―が、その他に一般的基準がない。「立法者意思説」(法律制定当時の立法者の歴史的・主観的意図を探求し再現しようとする)と「法律意思説」(立法者の意思を問わず、法律自体に内在する合理的意味内容を解明しようとする)との対立もあるが、決定的なものがない。
出発点は、法の文言の文理的・論理的解釈である。但し、これによっても複数の解釈の可能性が残される(否、それが通常である、と言いうる)。それから、歴史的解釈、立法後に社会的・経済的情勢が変化した場合(および立法時における見解の相違があった場合など)には、それに対応する根拠を見出さなければならなくなる。
結局、憲法以下の法体系全体を考慮し、それに整合するように解釈しなければならないであろう。また、社会一般の、正義とか衡平という感覚とも両立する、最も合理的な内容を突き止めなければならない。
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