幸せに生きる(笑顔のレシピ) & ロゴセラピー 

幸せに生きるには幸せな考え方をすること 笑顔のレシピは自分が創ることだと思います。笑顔が周りを幸せにし自分も幸せに!

「吉野弘詩集」 清水哲男編解説 山田太一エッセイ "愛が遙かに遠のいたあともざわめいている"

2015-05-19 01:31:01 | 本の紹介
“夕焼け”いつものことだが
電車は満員だった。
そして
いつものことだが
若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
つむいていた娘がたって
としよりに席をゆずった。
そそくさととしよりが座った。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。
娘は座った。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかしまた立って
席をそのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘は座った。
二度あることは と言う通り
別のとしよりが娘の前に
押しだされた。
可哀そうに
娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をギュッと噛んで
身体をこわばらせて-
僕は電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持ち主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる
何故って
やさしい心の持ち主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう
下唇を噛んで
つらい気持ちで
美しい夕焼けもみないで

“愛そして風“
愛の疾風に吹かれたひとは
愛が遙かに遠のいたあとも
ざわめいている
揺れている
風邪に吹かれて 枯草がそよぐ
風が去れば 素直に静まる
ひとだけが
過ぎた昔の 愛の疾風に
いくたびとなく 吹かれざわめき
歌いやめない -思い出を

ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にわかるのであってほしい

“SCANDAL”
スキャンダルは
キャンドルだと私は思う
人間は
このキャンドルの灯て、しばし
闇のあちこちを見せてもらうのだと私は思う。
みんな
自分の住んでいる闇を
自分の抱えている闇を
見たがっているのだが
自分ではスキャンダルを灯すことができないので
他人のスキャンダルで、
しみじみ
ひとさまの闇を覗くのだと私は思う
自分の闇とおんなじだわナ、と