英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

将棋雑感 『将棋世界』7月号 ~ビジョンの差 その1~

2012-07-21 22:25:28 | 将棋
ようやく7月号(先月号)です。
今回は女性棋戦の観戦記をふたつ。(もうひとつは、その2で)

「女王の厚い壁」……マイナビ女子オープン 第3局 上田女王×長谷川女流二段
 まず、棋戦名が「マイナビ女子オープン」でタイトル名が「女王」と名称が異なるのにやや違和感を感じる。スポーツ界では大会名にスポンサー名が入ることは日常で、将棋も「朝日杯」「大和証券杯」「NHK杯」「ユニバーサル杯」「霧島酒造杯」と冠棋戦が増えてきている。
 ただ、マイナビ女子オープンは、棋戦名にタイトル名が入っていない。これにより、イメージが拡散しているように思える。

 ここまで上田女王の2連勝。観戦記は、第2局にも触れている。
 第2局は初手より▲7六歩△3四歩に▲5六歩と先手の長谷川女流二段が注文を付けた。この指し方は△8八角成▲同銀△5七角から後手に馬を作らせ損と考えられている。実際、この形は平成に入ってからは、先手が36勝83敗と大苦戦の状況だ。
 長谷川女流が敢えてこの指し方を選んだのは、多少不利でも自分の得意な力戦型(上田女王にとっては未知の世界)に持ち込むのが狙いだった。
 タイトル挑戦が決まって、師匠の野田敬三六段と序盤の研究に力を注いだと書かれていたが、私は努力(研究)の方向を間違えていると思う。序盤が雑(桂銀交換もいとわない、馬を作らせても何とかなる)と以前から感じていたが、納得。

 第3局は、後手長谷川女流の角交換振り飛車穴熊。これも、師匠と練ってきた作戦だとのこと。

 この図の1手前の上田女王の▲3六歩は▲35歩の仕掛けを見せた手だが、長谷川女流は意に介せず△9一玉と穴に入る。▲3五歩とされても構わないという手だが、▲3五歩△同歩▲5六角(参考1図)と打たれ、

以下、△7二金▲2三角成△3四角▲2四歩△2二歩▲3四馬△同銀(参考2図)が予想され、後手の2二歩型はつらいと書かれている。


 以下、引用
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 上田も▲3五歩を突くか迷ったがひとまず自重。2手後の△8二銀にも▲3五歩(同歩には▲4五角)の仕掛けはあったが、上田は誘いに乗らず自陣の整備を優先した。あわてて仕掛けなくても、落ち着いて自分の将棋を指していれば勝てるという強者の思想が感じられ、女王としての貫録を見た気がした。
 もっとも感想戦で▲3五歩について問われた長谷川は、照れた表情で「あまり警戒していなかったです」と一言。突かれても何とかなるでしょ、と思っていたということだろうか。落ち着き払った対局姿勢といい、大物ぶりを感じさせるルーキーだ。
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 引用終わり


 上田女王の将棋は実戦的で、負けにくい手や勝ちやすい指し方を重視しているような気がする。神経も太く震えることもなく、方針がぶれず、終盤での競り合いに強い。読みも終盤の競り合いの方が冴えてくるように思われる。
 ただ、この将棋の自重はどうだろうか?「落ち着いて自分の将棋を指していれば勝てるという強者の思想」と観戦記の国沢健一氏は評価しているが、誘われた力戦型を恐れたとも取れる。勝つことが第一で、批判されるところではないだろうが、第一人者を争うタイトル戦での尻ごみは私は「いただけない」と思う。

 また、長谷川女流に関しても引用文以外にも、△9一玉を「▲3五歩の仕掛けを許す何とも豪胆な一手」と記しており、「大物ぶりを感じさせるルーキーだ」という評価と合わせて、私は疑問に感じている。
 「何とかなる」ではこの先、期待できない。もしかすると、「あまり警戒していなかったです」という言葉の真意は、「上田女王は踏み込んでこない」と見切っていたのかもしれない。それならば、「豪胆な一手」と評していいのかもしれない。
 しかし、この△9一玉周辺のふたりのやり取りは、将棋の質としては高いものとは言えないのではないだろうか。

 将棋は囲い合った後、上田女王の動きを長谷川女流が逆用しようとして小競り合いが続き、疑問手も互いにあったが、馬を作り銀桂交換の駒得の先手が有利になった。
 第2図は、その有利さを拡大を計り▲6五銀と打った手に対し後手が△3二飛と勝負手を放ったところ。

 これが機敏な切り返しで、馬と飛車の交換は先手の損なので、馬をかわしたいが、▲4五馬は△5三桂と6五に打った銀を逆用されてしまい、▲4四馬とかわすのも△5三角とぶつけられ、▲1一馬と香を取ると△3五飛が6五の銀取りと飛成を見られてしまう。
 ▲6五銀と打った瞬間の△3二飛が絶妙のタイミングのカウンターで、長谷川女流が狙っていたとしたら凄い。
 馬を消されたくない上田女王は▲5六馬と引き△3五飛を許し、▲3六歩に△5五飛(第3図)と飛車の押し売りを迫られてしまう。

 さらに上田女王は▲6六馬と辛抱し、△5三角と角にも逃げられてしまった。
 ここまで来ると、第2図では▲6四銀と角を取ってしまい、△3四飛▲同歩△6四歩と勧めた方が良かったように思う。

 と、一瞬の気を捉えてペースを握った長谷川女流だったが、△5三角▲2九飛に△3三桂(第4図)が調子に乗り過ぎた悪手だった。

 次に△2五飛とぶつけるのが狙いだが、そのためだけに持ち駒の桂を僻地の3三に手放すのはあまりにも勿体ない。
 観戦記によると同じ△2五飛の狙いなら△2四歩で良かったそうで、この方がプロらしい。観戦記には書かれていないが、▲2四同歩なら△2六歩ということなのだろうか。
 この後、▲5五馬(▲3五桂と抑え込むのが正着)△同歩以下、飛角を敵陣に打ち合い、第5図に。


 ここは「△6四歩と突くチャンスで▲7四銀に△4七馬の両取りが絶好」と観戦記。私は、以下▲3九飛△7四馬▲3三飛成と負担だった飛車が捌けるので先手も悪くないと思うがどうなのだろう。▲3三飛成に△4二銀(龍飛両取り)があるが、▲5三龍△同銀で飛車角交換は銀をうった甲斐があまりないのではないだろうか。

 それより気になったのは、第5図より△4七馬▲3九飛に△3八歩(第6図)と打った手。


 確かに飛車取りだが、▲4九飛と馬に当て返され、△5七馬に▲5八歩(第7図)と打たれ、

以下、△3九と▲5七歩△4九とと、結局馬と飛車の交換になってしまった(しかも後手を引いた)。
 戻って、第6図の△3八歩では△3七歩と垂らすところだろう。

 観戦記を書かれた国沢氏は優しい方なのだろう。
 しかし、高額の賞金が懸かっており、何よりも女性棋士の第一人者を競う将棋である、もう少し苦言を呈しても良いだろう。
コメント (4)
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