英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

将棋雑感 『将棋世界』6月号 その2 【補足あり】

2012-07-08 19:26:17 | 将棋
第16回全国高等学校将棋女子選抜大会
 一昔前、女流棋士(プロを含めて)の将棋は、足を止めてノーガードで流血しながら殴り合い、より致命的なダメージを受けた方が倒れる(負ける)といったものが多かった。受けるのが苦手で、受けない。「攻撃は防御なり」を実践していた。
 しかし、この将棋は、そんなイメージは遠い昔の幻であったと思わせるものであった。細かい攻守のやり取りを続け、攻めも守りも自ら暴発することはない。特に、後手の北村さんは受けが辛抱強い。

 後手の北村さんの角交換四間飛車に先手の小山田さんが玉頭に位を取った。

 右銀を巧みに引きつけた小山田さんが作戦勝ちとのこと。そこで北村さんが5筋に動いたのが第0図。
 この動きを捉え、▲2五歩△同歩▲2三歩△同飛▲3二角△2四飛▲4三角成(第1図)と馬を作る。

 先手の馬が威張っていて、後手の飛車も窮屈。うまくいくと飛車を取れそうだ。飛車を召し取れなくても、馬で飛車をいじめていけば、桂香を拾うことができしうだ。
 ちなみに、北村さんの名前は桂香さん。最初、図面にフルネームを表示したが、それだと、持ち駒に常に桂馬と香車があるように錯覚してしまう。手強い名前だ。
 しかし、ここで北村さんが実力を示す。
以下『将棋世界』記事
「△5四角が北村さんの実力を示した一手。以下後手を引くようだが、△2三飛に▲2四歩なら△2二飛▲3一馬△2四飛で切らすことができる」


 実戦は△5四角以下▲4二馬△2三飛に▲5六歩△4四銀▲4五歩△3三銀▲4一馬△2四飛▲4八飛△4二歩(第2図)と進む。

 この△4二歩は今後の局面を想定しての辛抱強い手である。
以下『将棋世界』記事
「△4二歩が素晴らしい。ここは普通の発想なら△2六歩だが▲5五歩△7六角▲同銀△2七歩成▲4四歩△3八と▲4六飛△2九飛成▲4三歩成(参考図)とされ、次の▲5二とが厳しいので勝てない。そこで△4二歩とじっと辛抱してチャンスを待つのだ。
 筆者は加藤女流王座とこの将棋の大盤解説をしたのだが、▲4八飛までの局面で「まあ△4二歩と打てれば強いけど、女子高生が短時間の将棋で指せるとは思えませんね」と大変失礼なことを言ってしまった。決勝の2人、いや大会に参加されたすべての選手に謝罪します。皆さんは私の想像よりはるかに強かったです」

 確かに先手からの4筋の攻めに備えた辛抱強い手だ。4筋で受けるだけなら△4三歩だが、これだと後手の角が窮屈で▲5五歩とされると角を切るしかなくなってしまう。
 △4二歩以下、実戦は▲5五歩△4三角▲4四歩△5二角▲同馬△同金▲4一角△6一角▲5二角成△同角▲5一金△6二金▲5二金△同金▲4一角△5一金打▲3二角成△3五角▲5四歩△4四角▲5三歩成△同角▲2二歩△同飛▲同馬△同銀▲5四歩△3五角▲4五飛△3三銀▲3五飛△同歩▲3一飛△4一飛▲3二飛成△4五角▲4一飛成△同金と、とにかく辛抱強い。

 ここで気になったのは、上記の第2図で△2六歩と突く変化。
 △2六歩は「普通の発想」らしいが、先に飛車を4筋に転回されているので気が利かない気もするが、後手も飛車を活用しないと勝てないので当然と言われればそうかもしれない。
 で、参考図までは一本道。

 こう進めば、「次の▲5二とが厳しいので勝てない」と書いているが、次に▲5二としても、素直に△7一金とされると意外に難しい。なので、参考図で△4五歩と打ち、▲同飛なら△6六桂(参考2図)でどうか?後手も指せるように思う。どうなのだろう?


マイナビ女子オープン五番勝負第1局

 第3図より実戦は△4六歩▲同銀△5六歩▲同歩△3九角▲2七飛△6六角成▲6七金直△4八馬と進んだ。
 小技を駆使し馬を作り、先手の飛車にプレッシャーを掛ける実戦的な指し方だ。ただ、△4六歩▲同銀と歩を渡して4五の桂に紐をつけさせ、銀桂交換の権利を与えるというのはかなりの損だと思う。
 第3図では△4四銀と銀取りにかわすのが自然で、▲4六歩と受けるのなら△5六歩と本譜と同じように指せばハッキリ得。また、△4四銀に▲4六銀でも△5六歩と同様に指せば、やはり本譜より得だと思う。

 長谷川女流の将棋を何局か拝見したが、銀桂交換に甘んじても勝負形に持ち込む指し方や、馬を作らせても容易に崩れないなど、実践的強さを感じる。裏を返せば、大雑把な指し方が目立つ。
 こういう指し方を否定はしないが、こういう指し方をするプロに成り立ての女流棋士を、女性将棋界の最高峰を争うタイトル戦に登場させてしまうのは、如何なものかと思う。


【補足】
 勝手さんがよい質問をしてくださったので、その回答を補足としてアップします。

>△45歩には▲56飛で無理をせず、次に▲52とや▲54歩の突出しがあって手に困らないと思うのですが・・・?

 まず、この記事の主旨ですが、
「▲4三歩成(参考図)とされ、次の▲5二とが厳しいので勝てない」
 これに対する疑問です。勝手さんも△4五歩に▲同飛では△6六桂が▲5二とより厳しいと判断して▲5六飛ならと考えたのでしょう。

 と言っても、▲5六飛に対して無策でよいと言うわけではありません。
 一応、考えてはあったのです。▲5六飛の局面は、先手のと金の存在が大きく見えます。しかし、後手も桂得で飛車を成り込んでいて釣り合いは取れています。(仮に、と金で3三の銀を取れば、銀桂交換の先手の駒得ですが、手数をかけて遊び銀との交換はあまり得とは言えません)
 そして、▲5六飛の局面で大きいのは手番が後手だという点。なので、後手に利のある局面だと私は考えたいです。
 具体的には、△6九銀▲6八金右△7八銀成▲同金△8四桂▲6七銀△6五金▲8六飛△7五金▲1六飛と飛車を追いやって、△1四歩(飛車の捕獲)や△2六歩(次に△7六桂)や△1九竜(次に△7六香)など有力な手が多いです。
コメント (2)
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