わくらばに とふひとあらば すまのうらに もしほたれつつ わぶとこたへよ
わくらばに とふ人あらば 須磨の浦に 藻塩垂れつつ わぶと答へよ
在原行平
もしたまたま私の消息を尋ねる人がいたなら、須磨の浦で藻塩の水が垂れるように涙を流しながら、わびしく暮らしていると答えてください。
詞書には「田村の御時に、事にあたりて、津の国の須磨といふ所にこもりはべりけるに、宮のうちにはべりける人につかはしける」とあります。「田村の御時」は第55代文徳天皇の時代の意。何か事件に関わって摂津の国にいたとき、ということですが、「事件」が何なのかは不明です。第一句「わくらばに」は「たまたま」「めずらしく」の意。不遇のわが身を嘆く詠歌です。