英語の民間試験は入学者選抜とは異なる目的で個々に開発されたものです。その結果を同列に扱って問題はないのか、都市部と地方で受験機会確保に差が出ないか、受験料負担が大きくないか、といった指摘が出ています。保護者が金銭的余裕のある私立高校はメリットがあるようで、実施をしたがっているようですが、明らかに不公平になりそうです。不正が発生する可能性のある民間試験導入なんてそもそも間違っていますね。国が主導して統一テストを作るとか、各大学に入学試験の援助するとか対策が必要になるでしょう。兎も角、有識者にオープンに議論してもらいたいですね。
以下抜粋コピー
大学入学共通テストにおける英語の民間試験について、来年度からの導入予定が突然の延期。異例の方針転換に、教育ジャーナリストの小林哲夫さんは「強行突破すると思っていた」と話す。小林さんが話を聞いた、筑駒高2年の男子生徒のインタビューが話題を呼んだが、都内屈指の名門東大合格者数ランキング上位校(2018年度は2位)に通う彼が、大学入学共通テストへ反対の声をあげた理由とは何だったのか。
小林哲夫さん 2020年度から始まる大学入学共通テストで導入される予定だった英語の民間試験について、萩生田文科大臣が来年度からの導入の延期を表明しましたが、私は延期ではなく中止にすべきだと思います。
戦後、文部省・文部科学省は大学受験において「受験生保護」を大原則としてきました。大学入試は誰でも同じような条件で受けられるものでなければならない。地域格差や経済格差があってはならないんですよね。
ところが今回の大学入試改革は、そういったギリギリの線まで侵してしまっているところがあります。受験の大原則である「機会平等」「公平性」「公正」を維持するためには、英語民間試験を導入するにしても、全国隅々に実施会場を設置しなければならない。地方都市の例としては北は稚内、南は宮古島などがメディアで取り上げられています。でも、それは不可能に近い。 まず試験の実施会場はなかなか見つからないでしょう。国会の委員会では、高校などの公共施設を会場にすればいい、という意見も出ていますがこれはきわめて困難な話です。入試直前の多忙期に教室をきれいに明け渡すのはむずかしい。それにだれが試験監督をするのか。その学校の教員でしょうか。これも過重負担、教員の働き方改革に逆行して現実的ではありません。
ほかにも経費、試験内容、試験方法など問題点がたくさんあります。延期したからといって地域格差、経済格差が解消されるような、すばらしい政策が打ち出されるとは思えませんので、英語民間試験は中止して、根本的に見直すべきだと考えています。
ただ、現実に延期になるとは思っていませんでした。文科省は強行突破するのではないかと。それは、延期による混乱を招きたくない、新たな制度を設計するのはしんどい、文科省への批判を避けたい、そして、官僚としてのメンツを守りたい、と文科省側は心底考えているからです。役人の習性ですね。でも、予想は外れてしまいました。首相官邸が萩生田文科大臣を守るために、英語民間試験が差し出されたという見方がなされていますが、あたっていると思います。
文科大臣の「身の丈」発言は、教育基本法の定める「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない」に反しており、まともな政権ならば更迭ものです。この文科大臣のもとで入試制度が決まるのは、たいへん不幸なことです。
筑駒高校2年男子生徒の「ぼくたちに入試を受けさせてください。大学入学共通テスト。ひとことで言えばこれは入試ではありません。入試を入試じゃなくする制度です。構造的な欠陥を多く抱えています。荒唐無稽な制度はいますぐ中止して、見直すべきです」という発言は、大きな反響を呼びました。あまりにも理路整然としていたため、この高校生が話したのではない、記者が作ったのではないかと疑われるほどです。でも、彼のようにしっかり考える高校生はめずらしくありません。高校生は世間が思っている以上に理知的で賢い。高校生をバカにしてはいけない。ただ、彼が社会に向き合って発信したから、注目されたわけです。
この筑駒生は数学が好きで物事をものすごく論理的に突き詰める。そうした思考のなかで大学入学共通テストは、とても不合理なことが多く荒唐無稽な制度と受け止めるようになったのでしょう。彼が住む東京の高校生ならば、この制度に十分、対応できる。だが、地方在住の受験生やハンディキャップを持つ受験生に対して公平ではなく、平等な機会が与えられておらず、不利になる人が出てくる。それはとてもおかしなことだと思ったようです。
また、彼自身、自分なりにきちんと入試制度を読み解いたところ、国語や数学の大学入学共通テストのプレテストの記述式問題にも大きな疑問を抱いた。そして、こんなおかしな制度を通用させてはいけないし、不安や不満を抱いている高校生はたくさんいる。これは黙っていられない、社会に対して問題提起しなければという思いから、彼は声をあげたのでしょう。
英語民間試験が延期になったとしても、大学入学共通テストは実施される予定です。しかし、国語や数学の記述式問題の中身が思考を問うような内容になっていない、記述式問題の解答の採点が難しい、なぜ採点をアルバイト学生にも認めるのか、などといった多くの批判が出ています。文科省がこれらを一つひとつ改善できないようでしたら、記述式問題反対の声が高校生、高校教師、予備校、大学教員などから多くあがるかもしれません。英語民間試験を延期ではなく中止せよ、という声と合わせて。
今回の入試改革は2020年度ありき、民間試験導入ありきで進んだため、試験の内容や方法を十分に検討することなく、また、批判が起こっても耳を傾けずに突っ走ったため、制度設計の不備が多すぎた。
入試改革そのものを一度、全部見直すべきだと思います。高校生から不満が出る前に、文科省は自浄能力を発揮してほしいです。