monologue
夜明けに向けて
 



その頃、わたしは渡米の前に昼間色々なアルバイトをして夜になると伏見桃山城を臨む桃山高校にバンドの練習のために家から自転車で通っていた。伏見桃山の商店街にあるギタリストやミュージシャンたちが集まるジョイ&マリという音楽喫茶で時間を過ごし桃山高校の定時制の授業が終わるまで待った。時には最後の授業に出席して先生に不審そうな顔をされた。授業が終わると教室の机を片づけドラムのセッティングを手伝った。近所迷惑になるのでバンドの大音量の練習は9時から10時までしか認められていなかった。オーティス・レディングやレイ・チャールズ、スリー・ドッグ・ナイトの曲などとわたしがその頃作ったリアル・リアル・ラヴ を主に練習していたのである。

  その練習を見に来る人の中に道路工事などで働いているというオジサンがいて一緒にアルバイトをするかという。のちにナベプロでプロのベーシストになるケーゾウとわたしがそのアルバイトを引き受けた。それはアスファルト敷きの仕事で灼熱のアスファルトを拡げていると長靴の裏が熱で焼けた。やけどをしないように働くのがむづかしい。それで道路工事の人々の大変さを思い知った。なんとかひと月やり終えて親方の家に給料を貰いに行くとアルバイトを世話してくれた人がさっき来たので一緒に支払ったという。ケーゾウと一緒にあのオジサンの家を訪ねてゆくと犬が激しく吠え立てていた。しかたなく一週間ほどしてケーゾウとふたりでふたたびオジサンの家に行くと家の入り口が開いたので入るとシェパードが鎖につながれたまま餓死していた。それほどたいした額でもないのに飼い主が心を惑わせ逃げてしまってその健気なシェパードがかわいそうだった。ケーゾウと顔を見合わせてわたしたちは桃山高校へ自転車で走りバンドの練習に臨んだのであった。
fumio

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