心子と向き合うときに重要なのは、彼女の発言や行ないに「巻き込まれないように」極力努めることでした。
彼女の言うことを真に受けて困惑したり怒ったり、巻き込まれてしまうと共倒れになり、それでは元も子もありません。
例えばあるとき、心子は生きる望みを失い、悲憤に駆られて僕に詰め寄ってきました。
「どう生きてったらいいの!? 彼氏なら教えて!
あたしの彼氏はちゃんと答えられる人であってほしいの!
答えられなかったら別れるからね!
彼氏はあたしより全てにおいて上じゃないといけないの!」
心子の問い詰めに即答できるかどうか、僕は内心うろたえました。
「それも白か黒かを求めてるってことだよ。ひとつの答はないんだよ」
僕は辛うじて取り澄まし答えましたが、心子は軽蔑的なため息をついて言いました。
「答えられないんだね……これで別れよう」
(続く)