K子さん (56) は、 50歳になるころから 家事や買い物ができなくなり、
大声で叫ぶなどの 行動も出始めて、
「ピック病」 (前頭側頭型認知症) と診断されました。
ピック病は、 理性をつかさどる 「前頭葉」 と、
言語能力に関連する 「側頭葉」 が縮む 原因不明の病気です。
気ままな行動が目立ち、 意思疎通が難しくなります。
善悪の判断ができず、 反社会的な行動に出ることもあります。
万引き犯が ピック病であることが分かって 無罪になったり、
解雇が撤回されたりする事例が 近年相次いでいます。
40~50代での発症が多く、 全国に1万人以上いるとされますが、
有効な治療法はありません。
K子さんは デイサービスを利用していましたが、
暴言を吐くなどしたため 利用を断られました。
その後、 全国で唯一の ピック病専門グループホーム
「ローゴム」 (岡山県) に、 ようやく入所することができました。
ローゴムでは 原則的に薬を使わず、 入所者の行動を 個性と認めて抑えつけません。
ただし、 常に行動に目を配り、 危険な行為に出たときは 止めに入ります。
K子さんは 大声で叫んだり歌ったり、
「あほんだら」 などと 暴言を吐くこともありました。
スタッフは K子さんが暴言を吐くたび、 K子さんの好きな 歌を歌いました。
K子さんもつられて歌い出し、 繰り返すうちに暴言は消えて、
表情が豊かになっていきました。
ピック病の患者は 体力のある中年の人も多く、
強い力で抵抗したりするため 家族の負担は大変です。
ローゴムには 入所希望が全国から来ますが、
定員の関係などで やむなく断ることも少なくないといいます。
〔 読売新聞 「医療ルネッサンス」 より 〕
(次の記事に続く)