<修正・追記あり>
最近話題のTPP。
菅総理の積極姿勢のアピールにはどうも唐突さ・胡散臭さを感じてしまいます。
「第二の開国を決断した」と言ってますが、そんな決断を託した覚えはないんだけどなぁ。
確かに民主党のマニフェストには「強い経済」のところでEPA、FTAの推進をうたっています。
アジアをはじめ各国とのEPA・FTAの交渉などを積極的に進めるとともに、投資規制の自由化・緩和などの国内制度改革に一体的に取り組みます
ただ、農業政策、戸別所得補償制度との関係はあいまいなままです。
その中で今になって急に言い出したのは、菅総理に「はやり物に飛びつく」という性格的な特徴があるように思えてなりません。
(追記:そして案の定APEC直前に政府内調整でトーンダウンしてしまいました)
小泉元総理は「ワンフレーズ・ポリティクス」と揶揄されましたが確信犯としてワンフレーズで国民を巻き込むよりも、はやり言葉に乗っかっている人のほうが変わり身が早そう信用ならない感じがします。
先日合意した日印EPAでも、コメや麦、牛肉、豚肉などは除外されてます。
これは双方とも輸出は考えていないとか国内産業保護とか宗教上の禁忌があるのでそもそも輸入しないとかの点で意見の一致を見たのだと思います。
なのでEPA・FTAにおいても、国内農業との関係をどうするかについてはモデルにはなりません。
逆に言うと今までのEPA・FTAは、農業問題が顕在化しない相手とだけ合意しているともいえます。
なのに一気にオーストラリアやアメリカも参加するTPPに行くのは、日印EPAが評価されたからちょいと調子に乗ったとか経済界への人気取りというのが動機の性急な行動に見えてなりません。
たとえば日豪EPAは2005年に政府首脳間で共同研究に合意、第1回会合が2007年に開かれて以来未だに合意に至っていません。
(参考 日豪EPAをめぐる状況 日豪FTA/EPA交渉と日本農業)
またまた登場の「やまけんの出張食い倒れ日記」
TPPって、このままなし崩し的に進めてよいテーマではないよ! 金沢の農家・西田さんからの指摘。
経由の農家・西田さんの意見には共感するものがります。
もちろん今の農業政策のままでいいとは思いません(というか多いに不満)が、今回のTPP議論はあまりに唐突という感が否めません。
そして見る視点。短期的に見て、長期的に見てどうなのか? 経済的な視点だけでいいのか? そのあたりが大きく問われてきています。それに対する国家観がないまま突入していくのはあまりにも怖い。補給線が断たれた上で遭難してしまいそうです。
そしてここのところ日経新聞が1面でやっている農業問題のキャンペーンなどの最近のマスコミの論調に対するやまけん氏の意見
やっぱり日本経済 新聞の論調をあんまり信じちゃいけないね。 「日本の農業も、構造改革して強くなれば、TPPを締結しても大丈夫」 といいたいのだろうけれども、それは間違っているよ。
■談話に引いている人が適切でないんじゃないか?
新聞やテレビなどが脳天気に「農業にこんな素晴らしい成功事例がある!」と紹介するのは、トップブランドや隙間を狙ったニッチなものばかりなのだ。
■極端な事例を「これが農業の真実だ」と言うのはオカシイよ
そのいい事例が、先般ベストセラーになった「日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率」という本だ。
案の定、この浅川さんの本を読んだ「だけ」なのに堂々と「食料自給率の真実はこれだ!」と言う人が多くて、ちょっと危ないなと思っている。真実もあるけど、言い過ぎじゃないのって部分が多いからね。
■「規模の大きい農業者ほど数が増えている」のは結果論でしかないよ!
「大規模化した農家が増えてきているから、大規模化する方向が正しいのだ」というような書き方をしているのは明 らかに間違っているのだ。現実的には「大規模化せざるをえないように追い詰められた」結果、そうした農業主体が 増えているということである。「日本では少子化が進んでいる」というデータをみて「少子化こそ日本の進むべき道 ということだ」と言うようなものではないだろうか
■「規模拡大をしても海外には勝てないはウソ」というのはウソだ!
まだ「企業が参入することによって農業が強くなる」というのを信じている人が多いようだけども、それはあり得な い話なんですよ。なんでかというのを、実は「農業ビジネスはやめときなさい」という新書に書こうとしているのだ けども、時間が無くて原稿書けてない(ゴメンナサイ)ので、ここでは詳しく論じません。
確かにマスコミの論調も、ちょっと前までの食料自給率40%騒ぎはどこにいったんだ、と思える内容です。
確かにこの40%という数字の取り方はいろいろ議論すべきところがあるようですが、一度持ち上げておいて一気に全否定するようなものでもないと思います。
一方で、最近の中国の経済力拡大や日本への観光客増大報道の一環で「中国人が日本の山林(=水源地)を買い漁っている、外国人が土地を自由に買えるのは日本だけだ」とヒステリックに叫んでいるテレビ番組もあります。
また、完全自由化するのであれば、輸入農産物は安いほうが消費者にはいいはずなのですが、円高が進むと企業業績が悪くなって心配、とも言っています。
一方、円安が進んだからといって農産物の輸出が飛躍的に増えるとも思えず、自由化後は消費者物価的には円安はマイナス効果が大きくなるはずで(水産物の商社の人の話では、1$=120円になると魚は中国に買い負けてしまって日本に入ってこなくなるのではないかと言っています)、そのへんは日本経済がどういうバランスで国として成り立っていこうとしているのかという視点が欠けているように思います。
これは、そもそも農業が産業としては小さい(GDPの1.5%、従事者で10%5%しか占めていない)ので何か騒ぎがないと国民全体としては継続的な関心を持てず、単発の反応になるために長期的な戦略が語られないこと。そして一方で、農水省や農業団体自体も継続的な広報活動をせず、単発の運動(米価改定、減反tec)を族議員も含めて情緒的なキャンペーンとしてやってきた歴史によるものなのかもしれません。
それにしても、オーストラリアとの間だけでも5年も協議していることを(たとえその期間には農水省などの「遅延行為」があったとしても)短期間で一気に方向性を決めてしうのであれば、きちんとした議論をすべきだと思います。
(日経新聞の1面の特集というのも、「国の将来を憂う」といいながらけっこう短期のブームで終わることが多いので、これも要注意)
<追記>
今週号の日経ビジネスでも「TPPなしでは競争力が維持できない」と言ってますが、もともとEPA/FTAは日本が2002年にシンガポールと結んだのは韓国に先んじていました。
ここにきて話題になったから、気がついたら遅れを取っていたから急に騒ぎ出すというのも、経済雑誌として見識がないように思います。
そんなに大事なら、もっと早く推奨したり警鐘を鳴らしてほしいものです。
(そういえば日経ビジネスといえばバブル期に「そごうの巨艦経営」とインパクトのある表紙で特集してましたね)