前半の「居場所のない男」では、戦後日本のサラリーマンの労働観を形作ってきた就労第一主義は、高度成長期までは婚姻率と就業率の高さによってそのひずみが表面化してこなかったが、団塊の世代が退職し、婚姻率が低下し、景気低迷により無業者の比率が増えることで、家庭や地域社会での孤立(特に退職後や無業者)が問題になってきたことを指摘します。
これ自身は、他所でも言われてきたことではあるのですが、本書の価値は第二部の「時間がない女」のところにあります。
ここで「男性の就労第一主義」が女性の時間が家族の共有財産(「時間財」)と位置づけられ、社会活動参加に直結しない活動に(しかも「愛情」を持って「自発的」に)携わることが求められてきた、その結果、家事労働はいまだ女性に偏重するなかで、社会進出、同時に少子化対策としての出産、さらには親の介護までもが求められることの矛盾を論証していきます。
第三部で、ワーク・ライフ・バランスを取り戻すためのいくつかの視点の提示と提言がされています。 ただ、そこの部分がこれ、という決め手のあるものに感じられない(簡単解決できるなら本書はいらない)のが、この問題の根深さを表しています。
現在必要とされているのは、男性も含めた労働と家庭生活のあり方の再編である。単位時間あたりの生産性を高めかつ評価し、就労インセンティブを保ちつつ生活満足度を上げるためには、総合的な見直しが必要である。
政府が述べてきた「女性活躍」は、スーパーウーマンが飛来して問題を解決してくれることを待っていてはかなわない。そうではなく、今、就労の現場にいる普通の女性が、普通の男性と協業し、その能力を発揮するための環境整備こそが求められている。
このためには、逆説的に「既存の男性の就労モデル」を疑い、問題を検証する必要がある。(中略)
だから、女性の社会進出と男性の家庭・地域社会進出をぜひとも推進することから始めてほしい。女性を企業のメンバーに加えると同時に、男性を地域社会メンバーに加えることが必要である。このためには、旧来の「標準世帯のライフスタイル」を前提とした社会制度を見直し、全方位的な雇用環境の改善を行う必要がある。(後略)