事件発生から一夜明けた水曜日。
お昼になった。
しかし、本社から社員は降りて来ない。
1時を過ぎても。
2時を回っても。
唯一、真下副店長だけが、カップラーメンの辺りをうろついていた。
「今日、暇ね。死にかかった年寄りばかり来てる・・・って、川石さんが言ってたよ!」
矢木さんは、ひっそりとした店内を見回しながら言った。
「今日、2階の事務所、あいてますよね・・・?」
それよりも、恩田すみれが気になるのは、昨日まで、あんなに
たくさんの本社社員がカップラーメンを買いに来ていたのに、この日は誰一人、降りて来ないことだ。
皆、惣菜の弁当オンリーにするのか、或は、矢木さんのカップで味噌汁食べてみよーに鞍替えしたのか・・・?
突然、なんで!?
不気味なほど、本社の人間にカップラーメンは避けられているようだ。
しかも、突然!
店内で見かけた本社社員といえば、バレンタインデーに備えて売り場作りをしている真下副店長の側で、きゃぴきゃぴ三人娘が
「きゃ~これ、きゃわいい~っ!」
「このチョコも、きゃわいい~!」
と足が地についていない様子で騒いでいたくらい。
まあ、いい。
この日は、乾物の発注日。
忘れてはならない大事な任務がある。
坦々麺をゲットせねば。
しかも、狸部長を満足させるだけの在庫を。
ふりかけ海苔類からスタートした発注は、順調に進み、
いよいよ、その時が来た。
カップラーメンの棚だ。
サッポロ一番カップスターを発注した後に続くのは・・・。
坦々麺!
いつもなら、2ケース。
多くて3ケース。
今ある在庫は3ケース。
いつもなら、発注ゼロでも間に合う在庫だが、
今回は5ケース発注したのだ。
5ケース!!
本当は、10ケース発注して、エンドに(広告チラシや特価商品を出すところ!)
で~ん!と荷出ししたいところだ。
しかし、それは、あまりに無謀なので、
今回は、店長の提案(・・・といっても冗談っぽかったが) を採用し、
フェイスを広げることにしたのだ!
今現在は、上から二段目の狭いところに坦々麺は、並べられている。
この棚を作ったのは、取引先だ。
私は荷出ししながら、
発注しながら、
頭の中は、坦々麺を何処に出すか!?で、いっぱいになっていたのだった。
一番、目立つところ!
しかも、広いスペース!
室井課長の目線真っ直ぐに坦々麺を並べるべきである。
すべては、坦々麺をこよなく愛する室井課長と、
狸部長の為なのだ!
なんと、本社社員思いの愛にあふれた乾物担当、恩田すみれ!
「決~め~た!」
ここしかない・・・だろう。
カップラーメンの棚のど真ん中。
しかも、一番上で、広~いスペース
ここに・・・。
まさしく、この場所に・・・。
ひな壇のように、並べるのだ!
坦々麺を!
赤いパッケージの坦々麺には、おひな祭りが良く似合う。
一段高いところから現場を眺める本社様には、
ひな壇こそ、似つかわしいではないか!
そして、店長に頼んでスペシャルポップを作ってもらうのだ!
「本社の狸部長お気に入り
坦々麺、只今、大量入荷!!!」
室井課長と狸部長ー。
「・・・・?」
まず、あいた口がふさがらず、
「・・・・」
次に、どう反応してよいか分からず、
「・・・・」
最後は、あまりに上司思い、本社社員思いの担当者の
深い愛に
涙することでありましょう!
嗚呼・・・
絶句!