只今、我がスーパーでは、スタッフ総出で賞味期限をチェック中だ。
水曜日、いつものように定番商品が入荷された為、荷出しをしていると、
岸辺さんがやってきた。
「今日、残業できる?店長がね、賞味期限をチェックしてほしいって」
「今日??残業は出来ますが、今から発注もあるし、日曜日じゃ駄目なんですかね?」
「私も土曜じゃ駄目ですかって聞いたんだけど、急ぐらしいよ。土曜日までには、結果を本社に あげたいみたい」
「それって、私が よく廃棄を出すから・・・かも」
「私だって、よく出すよ。そいう事じゃなくて、ほらっ!不二家とか・・・ホカベンに、ロイヤルも・・・」
最近、世間を騒がす事件が食品業界で多発している。
岸辺さんによると、そのためか、上層部もピリピリしているらしい。
ピリピリは、坦々麺の味だけじゃ、なかったのか。
無くなる前に!と思い、先日、初めて坦々麺を購入し、昨日、ようやく食べてみたが、
ピリピリとした東南アジアのような、どこか懐かしい味だった。
これを好んで食べると、神経ピリピリになりそうだ。
坦々麺が終売になった今でもピリピリというから、これは、大変。
さて。雑貨担当の末永さんも一時間残って、乾物の「ふりかけの棚」から
「椎茸の棚」の真ん中まで、チェックしてくれた。
そのあと、つばめ君が米の棚をチェック。
一部、私の担当の食品とダブルのだが、そのダブった商品のうち、
一つを西村チーフが大事そうに手に持って現れた。
「鈴木さん、これ、3月までの賞味期限ですから、売り場へ戻しますね」
身に覚えがない商品がバックへ下げられていたので、ピンとこなかったが、
つばめ君が、春を先取りし、3月分の「あわ」までバックへ下げてくれたのだと、西村チーフが去ったあと、遂に悟った私であった。
こうして担当者以外も巻き込み、せっせとお手伝いを余儀なくされた
賞味期限総チェックの一大イベントとなったのである。
2月下旬までの商品をワゴンに入れ、全部まとめて半額処分。
朝から在庫をひっくり返し、賞味期限を見ていると、
目がショボショボになってきた。
荷出しをする際、気を付けて見ているつもりでも、
見つかるものだ。
中には、「今日まで」
「あと3日」というものも!
中には、「昨日まで」というものもあり、
「惜しかったね!」
と、西村チーフに慰労の言葉を掛けられた。
「カト君担当のところから、賞味期限切れ、ゴロゴロ出てくるんだけど・・・。11月まで・・・とか。どうしてかなあ・・・?」
西村チーフの不思議そうなセリフに、岸辺さんは、
「ちゃんと荷出しの時は、入れ替えてますけどねえ・・・」
カトちゃんは、連休である。
今、御店で何が起こっているかは全く知らない筈。
私と岸辺さんは、2日連続の残業。
残業初日は、
「一応、今日は、6時で切り上げようか!」
と、店長から声がかかり、終了。
「もしや、早朝から仕事で、閉店10時まで・・・とか、考えてなかったよね」
と、岸辺さんは、少しドキリとしたらしい。
同じく私も。
最後に珍味の「ししゃも」が賞味期限切れで、廃棄となったので、
バックへ持っていき、店長に報告した。
昨年末に「新規」で入荷され、クリスマス頃に多く発注した分だ。
店長は廃棄を出した事を全く咎めることなく、(充分、反省してますが)
袋を開けると、一口食べた。
「あっ!これ、美味しい!!何処に出してある?珍味の棚か。この、ししゃも、卵がたっぷり入ってるよ!賞味期限が切れてるから、熟成されて、更に美味しくなってる! 西村、お前も食べてみて!」
「はい、美味しいですね。酒の肴にいいですね・・・」
二人でムシャムシャと召し上がっている所へ、精肉の江原チーフが通りかかった。店長に勧められ、江原チーフも一口試食。
「あっ、 美味しいですね。一つ、頂いて帰っていいですか?」
廃棄処分が終了し、捨てられる運命の「ししゃも」を一つ、江原チーフは手土産にして、去って行った。
「店長達が お腹壊さないか、一日様子見てから、もって帰るか決めよう・・・」
こう、呟いたのは、矢木さんである。
「そうよね、少なくとも、4、5時間は、様子みないとね・・・」
と、岸辺さん。
店長と西村チーフを実験台に様子を伺う事を決めた矢木さんと岸辺さんだったが、翌朝には、「ししゃも」は一つも残っていなかったのである。
そして・・・。
店長と西村チーフの二人は、普段と少しも変わらず健康そうで、
お腹を壊した様子はない。
ピンピンと活きの良い 「ししゃも」のように店内を跳びはねていたのであった・・・。