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「例外」を発見するAI「BLOX」の開発

2020-06-03 | 科学・技術
 理化学研究所革新知能統合研究センター分子情報科学チームの寺山慧特別研究員(研究当時、現横浜市立大学大学院生命医科学研究科准教授)、隅田真人特別研究員、津田宏治チームリーダー(物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 NIMS招聘研究員)、物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の田村亮主任研究員らの共同研究チームは、「例外」の発見に特化した人工知能(AI)「BLOX」を開発した。さらにこのAIを用いて、例外的な光を強く吸収する低分子量の有機化合物を複数発見することに成功した。本研究は、科学雑誌「Chemical Science」の掲載に先立ち、オンライン版(5月28日付:日本時間5月28日)に掲載。
 これまでに材料開発を飛躍的に発展させてきた要因は、予想や想定ができない、いわば例外の発見である。しかし既存のAIでは、人間が望む材料特性を予め設定することで新材料を開発してきており、例外的な物質を探すことはできなかった。
 共同研究チームは、機械学習をうまく組み合わせることで例外の度合いを数値化し、例外的な物質を効率的に発見するAIを開発し、「BLOX」と名付けた。BLOXを検証するために、量子力学に基づいた分子シミュレーション技術と組み合わせた結果、例外的な光吸収特性を持つ有機化合物候補を多数発見した。そのうちの8個を実際の化合物で評価したところ、250ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)以下や450nm以上の波長の光を強く吸収する例外的な特性を持つことを確認できた。このような化合物は、色素や有機太陽電池などの機能性材料として有用である。
 背景
 新たな研究領域を切り開くきっかけとなる物質や材料は、しばしば「例外」的なものである。この世界に存在する物質は非常に多様であるが、それらの物理的・化学的特性に注目すると、多くの場合さまざまな傾向や偏りが存在する。例えば、有機太陽電池の有機材料では、電圧と電流にトレードオフの関係がある。つまり、高電圧を示す材料では電流が低くなり、逆に高い電流値を狙った材料では電圧が低くなる。また、有機発光ダイオードに用いられる有機分子には、発光効率が高いほど寿命が短くなる傾向がある。これらの関係に反する物質は非常に有用であり、その開発に多くの労力が費やされている。
 これらの例に限らず、複数の特性を考慮した上で例外的な特性を持つ物質を効率的に発見できれば、かつてない機能を持った材料や新たな基礎研究の端緒を開く可能性がある。しかし、これまでこのような例外的物質の発見は、ほとんど偶然に任せるしかなかった。
 一方、近年、機械学習などに基づく人工知能(AI)を用いた新物質・材料設計が盛んに行われている。AIの設計では、目標となる特性を予め設定する必要がある。しかし、この弊害として、予想される物質が多く設計されてしまい、研究開発者の想像を超える例外的物質はなかなか発見されないというジレンマがあった。例外的な物質を効率的に発見するためには、従来とは異なるAI技術の開発が必要となる。そこで、共同研究チームは、例外的な物質の探索に特化したAI開発を試みた。
 研究手法と成果
 共同研究チームは、機械学習をうまく組み合わせることで例外の度合いを数値化し、例外的な物質を積極的に発見するAIを開発し、「BLOX(BoundLess Objective-free eXploration)」と名付けた。BLOXは、特性が既に分かっている物質(既知物質)のデータベースを利用し、特性がまだ不明な物質(未知物質)のうち最も例外的と考えられる物質を提案する。まず、既知物質から機械学習を用いて特性を予測するモデルを構築し、その後、そのモデルを使って未知物質の特性を予測する。すると、既知物質が示す特性分布と、未知物質に対する予測特性分布が得られ、未知物質の予測特性分布のうち最も「外れた」ものが例外的物質であると期待される。
 予測特性分布からの外れ度合いを数値化するために「Stein novelty」という尺度を導入すると、例外的な物質の候補が選択される。さらに、この候補物質の実際の特性を実験やシミュレーションによって測定し、そのデータを既知物質のデータベースに追加する。以上のプロセスを繰り返すと、例外的な特性を示す物質データが次々と蓄積され、より例外的な物質の探索が促進される。
 次に、BLOXを用いて、創薬用の市販分子データベースであるZINCの中から、例外的な光吸収特性を持つ化合物を探索した。低分子量の有機化合物(以下、分子と呼ぶ)のほとんどは250~450ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)程度の光を強く吸収し、これ以外の光を強く吸収する分子は例外的といえる。このような例外的な分子は、色素や有機太陽電池など光吸収特性を生かした機能性材料として有用である。BLOXによる探索では、分子がどの波長の光を効率良く吸収するかを、実験またはシミュレーションによって評価する必要がある。本研究では、量子力学に基づく分子シミュレーションである「密度汎関数理論(DFT)」計算により光吸収特性を導出した。
 ZINCデータベースに含まれる10万個の分子から、BLOXとDFT計算を組み合わせて例外的な光吸収特性を持つ分子を2,000回探索し、例外的でない分子も含めて2,000個が得られた。すると、ランダムな探索により得られた分子の分布に比べて分布が大きく広がり、例外的な分子の候補を多数発見した。さらに、DFT計算に基づいた光吸収特性が例外的な候補分子の中から8個を実際に準備し、実験的に光吸収特性を測定した。その結果、光の吸収波長・強度ともに、DFT計算で予測された値とほぼ一致し、BLOXとDFT計算を組み合わせることで例外的な分子が効率的に発見できることが実証された。
 BLOXによって発見された分子は、例外的な光吸収特性を持ち、その性質ゆえに色素や有機太陽電池などの有用な機能性分子としてのポテンシャルを持つ。注目すべき点は、これらの分子の多くはもともと薬開発の副産物として得られたもので、それらの光吸収特性は基本的に注目されてこなかったことである。これは、BLOXを用いれば、本来の用途を超えた有用な物質・材料を発見できることを示している。
 今後の期待
 既存のAIやデータ駆動型科学では、多くの場合、人間が望みの材料特性をあらかじめ設定することで、新材料を開発してきた。しかし、今回開発・実証したBLOXは、それらとはアプローチが異なり予想外・想定外なものを積極的に発見する枠組みである。今後、このBLOXを自動合成システムなどと組み合わせれば、自動で例外物質が次々と発見され、研究者が全く想定していなかった性質を示す物質の発見が加速されると期待できる。
 また、BLOXは化学や材料分野のみならず、幅広い科学分野における例外的事象の探索に活用されることも期待できる。
 ◆補足説明
 〇機械学習
 膨大なデータをコンピュータに入力し、その中にある既知の特徴を繰り返しコンピュータに学習させるか、もしくはデータそのものからコンピュータに規則性を発見させることで、未知のデータに対する解答を自動で得る手法。
 〇量子力学に基づいた分子シミュレーション技術
 量子力学方程式を計算機によって近似的に解くことで、分子の物性や反応性を予測する技術。
 〇有機太陽電池
 有機半導体を光電変換層として用いた太陽電池のこと。塗布プロセスによって大量生産できると同時に、安価かつ軽量で柔らかいことから、次世代の太陽電池として注目を集めている。
 〇有機発光ダイオード
 有機物質に電圧を加えた際に発光する性質(有機エレクトロルミネセンス)を利用した素子。スマートフォン、テレビなどに広く利用される。
 〇Stein novelty
 データの分布からの外れ度合いを定量化するために本研究で提案した指標。近年、Stein discrepancyと呼ばれる二つのデータの分布間の「ずれ」を定量化する方法が機械学習分野で注目されている。本研究では、Stein discrepancyを用いて一様分布からの「ずれ」を測ることで、外れ度合いを定量化した。Stein noveltyを用いると、特性の数やデータ分布の形状や範囲にかかわらず、外れ度合いを計算できる。
 〇密度汎関数理論(DFT)
 分子や材料の電子の状態を得るための量子力学に基づいたシミュレーション手法の一つ。DFTはDensity Functional Theoryの略。

 今日の天気は晴れ。早朝に雨が降った様だ、路面が濡れていた。
 駐車場横の小さな花壇。”ツボサンゴ”の花が咲いている。小さな釣鐘形(壺形)の朱赤色の花が鈴なりに咲いている。花と言ったが、朱赤色花弁の様に見えるのは萼(がく)、だから長く咲いているように見える。見つけた場所は庭木の下、半日陰~日陰・水はけの良い場所が好みのようだ。
 ”ツボサンゴ”の魅力は、花よりも葉色の美しさにある・・今日はお花。葉はハート型・円形で、葉色に銅葉や銀白色・琥珀色などがあり、カラーリーフプランツとして人気がある。
 名(ツボサンゴ)の由来は、花姿(壺形)と花色(真っ赤な珊瑚色)から・
 ツボサンゴ(壺珊瑚)
 別名:ヒューケラ(ホイヘラ)
 英名:Coral bells
 学名:Heuchera sanguinea
 ユキノシタ科ツボサンゴ属
 耐寒性常緑宿根草(多年草)
 北アメリカ原産
 開花時期は5月~9月
 花は小豆大(径数mm)の釣鐘形(壺形)
 花色は朱赤色、白・桃・淡緑色もある
 葉色には、銅葉や銀白色・琥珀色などのがある。葉色の美しさからカラーリーフプランツとして人気がある。


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