理化学研究所生命機能科学研究センター集積バイオデバイス研究チームの田中陽チームリーダー、産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門次世代メディカルデバイス研究グループの永井秀典研究グループ長らの共同研究グループは、タンパク質のアルブミンを原料として、シリコーンゴムの鋳型で型取りすることにより、細胞培養用の微小デバイスを簡単に作製することに成功した。本研究は、科学雑誌「PLOS ONE」(5月20日付:日本時間5月21日)に掲載。
共同研究グループは、「細胞パターニング」用のデバイスを作製するにあたり、真空吸引を利用してさまざまな溶液の鋳型への流れ込み方について調べた結果、鋳型に流れ込む溶液の量は溶液の粘性には依存せず、多様な溶液を使用できることが分かった。さらに、産総研が開発した「架橋アルブミン」水溶液を用いたところ、1日以内に細胞パターニング用の微小デバイスが作製でき、そのデバイスは7日間の細胞培養に耐えられることが分かった。
背景
細胞生物学において細胞集団の空間的な配置は、細胞集団の形態形成や組織機能の発現に関わる重要な要因として知られている。このため、細胞培養皿の表面など、細胞が接着する基材表面において、化学的な表面処理などにより、細胞が接着する部分と接着しない部分に区分けし、細胞の接着エリアを制御する「細胞パターニング」という手法がよく用いられる。
田中陽チームリーダーらは、生体高分子の一種で、海藻の寒天から精製されるアガロースなどの水溶液を用いた細胞パターニング手法をこれまでにも開発してきた。これらの手法は、硬貨や自動車部品を作る際に用いられる「鋳造」という方法を応用し、どこでも簡単に作れるものである。シリコーンゴムの表面に深さ1mm以下の細かな溝を設けた「鋳型」を作り、そこにアガロース水溶液を流し込んだ後、鋳型を取り外すと、アガロースが鋳型の形に成型される。これを細胞培養に使うと、アガロースで覆われた部分には細胞が接着しないため、アガロースで覆われた所とそうでない所が区分けされ、アガロースで覆われていない所だけに細胞を接着させることができる。
研究手法と成果
共同研究グループは、フォトリソグラフィーと呼ばれる半導体製造に使われる手法を応用し、シリコーンゴムに細長い微小な溝を彫った。溝が下になるようにして、シリコーンゴムを容器上に置き、真空中に1時間ほど置くと、シリコーンゴムに溶け込んでいる気体分子を取り除くことができる。そして、再び大気圧に戻すと、気体分子がシリコーンゴムに溶け込むが、これによりシリコーンゴムで囲まれた空間が真空になることが知られている。この真空を利用して、粘性が異なる溶液を、さまざまなサイズのシリコーンゴムの溝に吸引させた。このとき溶液が溝に流れ込む様子を観察し、単位時間あたりに流れ込む溶液の量を算出した。
解析の結果意外にも、粘性が高いドロドロした液体であっても、水のようにサラサラした液体と同じように溝の中に吸引できる一方で、溝の高さや幅などのサイズが流量を大きく左右することが分かった。これは、粘性に関係なく、多様な溶液が使用可能であること、流量はシリコーンゴムによる気体の吸引量が支配的であり、シリコーンゴムに囲まれた領域のサイズが大きいほど吸引量が平均的に増えることを示している。さらに、シリコーンゴムの気体吸引を考慮したモデルを構築し、数値シミュレーションによって、実際の液体の流量を再現することに成功した。
次に、どのような材料が細胞パターニングに適しているかを検討した。注目したのは、産総研で開発された「架橋アルブミン」というタンパク質をベースにした材料である。血液中に多く含まれるタンパク質であるアルブミンは、一般的に水に溶けやすく、細胞培養の際に用いられる培養液に溶けてしまうため、細胞培養用デバイスの材料には不向きです。これに対して、化学処理によって複数のアルブミン分子を架橋させた架橋アルブミン水溶液は、いったん乾燥させると水に溶けない固形の材料に加工することができる。そこで、シリコーンゴムの鋳型に架橋アルブミン水溶液を流し込み乾燥させれば、培養液中でも安定して使用できる細胞培養用デバイスが作製できると考えた。
実験の結果、架橋アルブミン水溶液をシリコーンゴムの鋳型に流し込み、真空吸引後大気圧に戻し、溶液が乾燥した後鋳型を取り外すことで、1日以内に細胞培養用デバイスを作製できることが分かった。これまで、溶液の乾燥に3日以上かかっていたアガロース水溶液を用いた方法よりも、迅速にデバイスの準備ができる。
実際に、作製した架橋アルブミン製細胞培養用デバイスを用いて、細胞パターニングを行ったところ、架橋アルブミンもアガロースと同様に、細胞がその上には接着しなかった。架橋アルブミンの直線パターンを細胞培養皿に作り、マウス骨格筋由来の筋芽細胞株であるC2C12細胞を培養液中で培養した。比較対象とした、架橋していない通常のアルブミンで作った細胞培養用デバイスでは、細胞が全体に広がり細胞パターニングができないのに対して、架橋アルブミンでは、直線パターンが7日間にわたって維持されることが確認できた。
今後の期待
これまでアガロースを使った細胞培養用デバイスは、長期間の細胞培養でも安定だったが、作製に時間がかかるという課題があった。今回使用した架橋アルブミンを用いれば、より短期間で作製できることから、実験に必要なものを必要なときに準備できるようになり、実験の効率化に貢献すると期待できる。
また、開発した微小デバイスは、シリコーンゴムの鋳型にタンパク質溶液を吸引させて作製した初めての細胞培養デバイスである。今回は手法の実証を目的として「細胞非接着性」のアルブミンを使用したが、シリコーンゴム製マイクロ流路の吸引力を利用した本手法は、「細胞接着性」の水溶性タンパク質にも展開可能である。細胞と細胞接着性タンパク質の相互作用(細胞の形状や発生・分化といった細胞機能と細胞接着性タンパク質の関連)を調査したいというニーズは高く、特定の形状を持つ構造の細胞接着性タンパク質を用いた微小デバイスがそのような研究にも応用されると考えられる。
◆補足説明
〇アルブミン
血清アルブミンのこと。分子量約66,000の安定な可溶性タンパク質で、血液中のタンパク質の約60%を占める。血液の浸透圧調整の役割を担っている。タンパク質の標準物質として広く研究に用いられている。
〇シリコーンゴム
シリコーンを主成分とする樹脂。液体状態の原料(モノマー)に触媒を加えると、重合反応により硬化し、ゴム状になる。本研究ではポリジメチルシロキサン(PDMS)というシリコーンゴムを用いている。
〇細胞パターニング
培養皿の上など、細胞が接着する基材表面において、化学的な表面処理などにより、細胞が接着する部分と接着しない部分に分画し、細胞の接着エリアを制御する技術。近年発達している一細胞レベルでの解析や大量の細胞解析といった最先端細胞科学の発展には欠かせないものとなっている。例えば、細胞を定位置に置くことで観察のハイスループット化を可能にする。
〇アガロース
海藻から作られる寒天を精製したもので、生物学実験では核酸電気泳動や大腸菌培養などに利用され、生物学分野の研究室ではなじみ深い物質である。
天気は晴れ。暫くの晴れで、畑の作物は元気に成長。
畑までの散歩、空き地にお花、”ヒルザキツキミソウ”が咲きだした。可憐で優雅なお花だ。
”ヒルザキツキミソウ”の名は、昼に開花する”ツキミソウ(月見草)”からと言う。”ツキミソウ”は宵に咲く。両者の違いは、咲く時間と花色だけかな?・・私には分からない。
ヒルザキツキミソウ(昼咲月見草)
別名:昼咲(ひるざき)桃色月見草
英名:Pinkladies Showy evening primrose
学名:Oenothera speciose
アカバナ科マツヨイグサ属
耐寒性多年草
北米原産、観賞用として輸入された
生命力が強く野生化した帰化植物
丈は30cm~45cm
開花時期は5月~7月
花径は数cm、花色は白・薄桃色で黄色もある
共同研究グループは、「細胞パターニング」用のデバイスを作製するにあたり、真空吸引を利用してさまざまな溶液の鋳型への流れ込み方について調べた結果、鋳型に流れ込む溶液の量は溶液の粘性には依存せず、多様な溶液を使用できることが分かった。さらに、産総研が開発した「架橋アルブミン」水溶液を用いたところ、1日以内に細胞パターニング用の微小デバイスが作製でき、そのデバイスは7日間の細胞培養に耐えられることが分かった。
背景
細胞生物学において細胞集団の空間的な配置は、細胞集団の形態形成や組織機能の発現に関わる重要な要因として知られている。このため、細胞培養皿の表面など、細胞が接着する基材表面において、化学的な表面処理などにより、細胞が接着する部分と接着しない部分に区分けし、細胞の接着エリアを制御する「細胞パターニング」という手法がよく用いられる。
田中陽チームリーダーらは、生体高分子の一種で、海藻の寒天から精製されるアガロースなどの水溶液を用いた細胞パターニング手法をこれまでにも開発してきた。これらの手法は、硬貨や自動車部品を作る際に用いられる「鋳造」という方法を応用し、どこでも簡単に作れるものである。シリコーンゴムの表面に深さ1mm以下の細かな溝を設けた「鋳型」を作り、そこにアガロース水溶液を流し込んだ後、鋳型を取り外すと、アガロースが鋳型の形に成型される。これを細胞培養に使うと、アガロースで覆われた部分には細胞が接着しないため、アガロースで覆われた所とそうでない所が区分けされ、アガロースで覆われていない所だけに細胞を接着させることができる。
研究手法と成果
共同研究グループは、フォトリソグラフィーと呼ばれる半導体製造に使われる手法を応用し、シリコーンゴムに細長い微小な溝を彫った。溝が下になるようにして、シリコーンゴムを容器上に置き、真空中に1時間ほど置くと、シリコーンゴムに溶け込んでいる気体分子を取り除くことができる。そして、再び大気圧に戻すと、気体分子がシリコーンゴムに溶け込むが、これによりシリコーンゴムで囲まれた空間が真空になることが知られている。この真空を利用して、粘性が異なる溶液を、さまざまなサイズのシリコーンゴムの溝に吸引させた。このとき溶液が溝に流れ込む様子を観察し、単位時間あたりに流れ込む溶液の量を算出した。
解析の結果意外にも、粘性が高いドロドロした液体であっても、水のようにサラサラした液体と同じように溝の中に吸引できる一方で、溝の高さや幅などのサイズが流量を大きく左右することが分かった。これは、粘性に関係なく、多様な溶液が使用可能であること、流量はシリコーンゴムによる気体の吸引量が支配的であり、シリコーンゴムに囲まれた領域のサイズが大きいほど吸引量が平均的に増えることを示している。さらに、シリコーンゴムの気体吸引を考慮したモデルを構築し、数値シミュレーションによって、実際の液体の流量を再現することに成功した。
次に、どのような材料が細胞パターニングに適しているかを検討した。注目したのは、産総研で開発された「架橋アルブミン」というタンパク質をベースにした材料である。血液中に多く含まれるタンパク質であるアルブミンは、一般的に水に溶けやすく、細胞培養の際に用いられる培養液に溶けてしまうため、細胞培養用デバイスの材料には不向きです。これに対して、化学処理によって複数のアルブミン分子を架橋させた架橋アルブミン水溶液は、いったん乾燥させると水に溶けない固形の材料に加工することができる。そこで、シリコーンゴムの鋳型に架橋アルブミン水溶液を流し込み乾燥させれば、培養液中でも安定して使用できる細胞培養用デバイスが作製できると考えた。
実験の結果、架橋アルブミン水溶液をシリコーンゴムの鋳型に流し込み、真空吸引後大気圧に戻し、溶液が乾燥した後鋳型を取り外すことで、1日以内に細胞培養用デバイスを作製できることが分かった。これまで、溶液の乾燥に3日以上かかっていたアガロース水溶液を用いた方法よりも、迅速にデバイスの準備ができる。
実際に、作製した架橋アルブミン製細胞培養用デバイスを用いて、細胞パターニングを行ったところ、架橋アルブミンもアガロースと同様に、細胞がその上には接着しなかった。架橋アルブミンの直線パターンを細胞培養皿に作り、マウス骨格筋由来の筋芽細胞株であるC2C12細胞を培養液中で培養した。比較対象とした、架橋していない通常のアルブミンで作った細胞培養用デバイスでは、細胞が全体に広がり細胞パターニングができないのに対して、架橋アルブミンでは、直線パターンが7日間にわたって維持されることが確認できた。
今後の期待
これまでアガロースを使った細胞培養用デバイスは、長期間の細胞培養でも安定だったが、作製に時間がかかるという課題があった。今回使用した架橋アルブミンを用いれば、より短期間で作製できることから、実験に必要なものを必要なときに準備できるようになり、実験の効率化に貢献すると期待できる。
また、開発した微小デバイスは、シリコーンゴムの鋳型にタンパク質溶液を吸引させて作製した初めての細胞培養デバイスである。今回は手法の実証を目的として「細胞非接着性」のアルブミンを使用したが、シリコーンゴム製マイクロ流路の吸引力を利用した本手法は、「細胞接着性」の水溶性タンパク質にも展開可能である。細胞と細胞接着性タンパク質の相互作用(細胞の形状や発生・分化といった細胞機能と細胞接着性タンパク質の関連)を調査したいというニーズは高く、特定の形状を持つ構造の細胞接着性タンパク質を用いた微小デバイスがそのような研究にも応用されると考えられる。
◆補足説明
〇アルブミン
血清アルブミンのこと。分子量約66,000の安定な可溶性タンパク質で、血液中のタンパク質の約60%を占める。血液の浸透圧調整の役割を担っている。タンパク質の標準物質として広く研究に用いられている。
〇シリコーンゴム
シリコーンを主成分とする樹脂。液体状態の原料(モノマー)に触媒を加えると、重合反応により硬化し、ゴム状になる。本研究ではポリジメチルシロキサン(PDMS)というシリコーンゴムを用いている。
〇細胞パターニング
培養皿の上など、細胞が接着する基材表面において、化学的な表面処理などにより、細胞が接着する部分と接着しない部分に分画し、細胞の接着エリアを制御する技術。近年発達している一細胞レベルでの解析や大量の細胞解析といった最先端細胞科学の発展には欠かせないものとなっている。例えば、細胞を定位置に置くことで観察のハイスループット化を可能にする。
〇アガロース
海藻から作られる寒天を精製したもので、生物学実験では核酸電気泳動や大腸菌培養などに利用され、生物学分野の研究室ではなじみ深い物質である。
天気は晴れ。暫くの晴れで、畑の作物は元気に成長。
畑までの散歩、空き地にお花、”ヒルザキツキミソウ”が咲きだした。可憐で優雅なお花だ。
”ヒルザキツキミソウ”の名は、昼に開花する”ツキミソウ(月見草)”からと言う。”ツキミソウ”は宵に咲く。両者の違いは、咲く時間と花色だけかな?・・私には分からない。
ヒルザキツキミソウ(昼咲月見草)
別名:昼咲(ひるざき)桃色月見草
英名:Pinkladies Showy evening primrose
学名:Oenothera speciose
アカバナ科マツヨイグサ属
耐寒性多年草
北米原産、観賞用として輸入された
生命力が強く野生化した帰化植物
丈は30cm~45cm
開花時期は5月~7月
花径は数cm、花色は白・薄桃色で黄色もある
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