今年から、これまでの「推薦制」をやめて、事実上のアンデパンダン(自由出品)に移行した抽象派作家協会展。
一般出品者として11人がエントリーしました(うち1人は都合で出品とりやめ)。ベテランから大学院を修了したばかりの若手まで世代は幅広く、同人の今荘義男さんも
「入場者が増えたし、若い人が率先して受付などをやってくれるので頼もしい。来年以降も出品してほしい」
と笑顔で話しておられました。
その一方で、2004年から不動だった同人メンバーのうち、あべくによしさん(旭川)と服部憲治さん(苫小牧)が病気のために不出品となりました。
一日も早い快癒を祈りたいと思います。
この10年ほどはあまり目立った動きのなかった「抽象派」ですが、世代交代の波が迫ってきているといえるのかもしれません。
さて、同人から作品の紹介をしていきましょう。
林教司さん(岩見沢市栗沢町)「昇化」は400×400×180センチという大型インスタレーション。
石に針金を取り付けるという方法論は、永野光一さん(札幌。二紀展委員)の作品をスカスカにしたような感じもあり、また、上の部分だけを見ていると、宮脇愛子さんの「うつろひ」シリーズのようでもありますが、これだけたくさんあると、やはり壮観です。都市のがれきのようにも見え、そうなると作品は、にわかに文明批評的というか、終末的な色調を帯びてくるようです。
正面奥の壁を毎年確保している外山欽平さん(函館)は、先の個展で発表した「K」の大作を組み合わせた「KEY」。
なるほど、キーのかたちに見えてきます。
今荘さん(岩見沢市栗沢町)は「古里 19」「古里 20」「古里 20」の3点。
いずれも300×180センチ。
題の数字は、制作年を平成で表したものです。
抹茶色や茶色をメーンにした絵画は、沈んだ美しさをたたえています。
単なる言葉のあやではなくて、真の意味で「わび、さび」の日本美を感じさせる油彩だと思います。今回は、色調に加え、表面にひっかいたような微妙なマティエールがあり、おもしろさが増しています。
見るほどに、深い世界に吸い込まれていくような、抽象画の醍醐味を感じさせる佳作です。
今荘さんとともに、36年前の旗揚げのときから参加している大ベテラン佐々木美枝子さん(札幌)。
目録にはS60の「作品A」「作品B」とF60の「作品C」「作品D」が載っていますが、会場にはもう1点、同様の大きさの作品がありました。
いずれも格子模様の中に幾何学的な図形を組み入れたものですが、塗りのこしやむらのあるあたりに、味が感じられます。
近宮彦彌さん(旭川)「ノンタイトル」(F150)。
ネオンサインを使った平面作品。
近宮さんのネオンは2年ぶりです。
抽象といいますが、どこか人間像のよう。
左端の、手の指先に当たる部分が動いて見えます。
見ているとほっとするユーモラスな作品。
三浦恭三さん(小樽)「浮遊1」「浮遊2」「浮遊3」「浮遊4」(いずれもF100)。
緻密な構図で陸上トラックのような形状の絵を描いていた三浦さんですが、画風ががらりと変わりました。
バイオモーフィックな、有機的な形状が浮遊する作品。地は、絵の具がはじく性質を利用して、ストロークと飛沫が全面におどっています。
三浦さんはベテランですが、作品は若々しいと思います。
後藤和司さん(札幌)「'08 春のscene」(M100×3)の部分画像。
後藤さんは例年、ツイード織りのような細かい模様がオールオーバーに画面を覆う大作絵画を出品しているので、ことしは接近して撮ってみました。
これでも、後藤さんのご苦労様感は、つたわらないかもしれないなあ。
以上が同人。
ここからが一般の作品です。
画像サイズが違いますが、深い意味はありません。
横山隆(札幌)「彼方へB」(183×92センチ)
横山さんは4年連続の出品。「彼方へA」(183×129センチ)も出品しています。
以前、筆者は横山さんの作品について「日本のアルテ・ポーヴェラだ」と形容したことがあります。
段ボールと板で構成した作品は、「貧者の建築模型」「原初の都市計画」とでも呼びたい魅力を持っていると思います。
甲斐野弘幸(札幌)「跫音 08-1」(F120)
甲斐野さんは2年連続の出品。
「跫音08-2」「跫音08-3」と、F120を計3点ならべ、意欲的なところをみせています。
モノトーンの重厚な画風でしたが、今回は赤などを用い、動的になってきているようです。
岩田琿(渡島管内七飯町)「CUT.TURBO-08」(230×575センチ)
岩田さんも2年連続。
水彩絵の具を、筆で走らせるのではなく、紙の上にぽんぽんと置いていく技法で、5枚組みの支持体を埋め尽くしていく手法。
以前は、藍色の画面に、廃材や道具などが見えましたが、完全に抽象に移行したようです。
ただ、本人に「いわゆる水彩」のような意識が残っているのか、透明なビニールが額のように全面を覆っており、見ることへの集中を妨げてしまいます。あるいは、これもひとつの戦略なのかもしれませんが。
笹岡素子(江別)「無題」(300×400センチ)
笹岡さんは2年連続4度目。
座布団のような形を積み上げています。
それぞれはおもしろいのですが、全体的な色彩の統一感はあまりありません。そこがいいのかもしれません。
鈴木悠高(札幌)「Yellow2008」(116.7×700.2センチ)
初出品。
鈴木さんは、昨年札幌時計台ギャラリーでひらいた個展で展示したものを再び展示しています。
抽象の王道を歩むような作品です。
ほかの作品は次の通り。
石川潤
「生命の旋律」(F200)
「帰する日」(F150)
「海に浮かぶ地球」(同)
宮本市子
「ミカエル」(180×180センチ、4枚組)
「ギターの森」(同)
鈴木薫
「仮定の根に聞く」(182×182センチ)
「仮定の根に聞く 1」(同)
「仮定の根に聞く 2」(同)
名畑美由紀
「細胞」(F100)
「細胞 II」(F100×2)
最若手の石川さんは、3点とも発表したことのある作品でした。
08年4月15日(火)-20日(日)10:30-18:00(初日13:00-、最終日-17:00)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
□公式サイト http://members3.jcom.home.ne.jp/hokkaidou.tyuusyouha/
■第34回
■第33回
■第32回
■第31回
■03年秋季展(画像なし)
■第30回(画像なし)
■02年の秋季展(画像なし)
■第29回
■01年の秋季展
■第28回
■鈴木悠高展 The folowing world on evolution(07年9月)