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■山田大揮個展「あなたは石を見ている 石はあなたを見ていない」 (2月6~10日、札幌)―2020年2月6~8日は13カ所(9)

2020年03月03日 07時56分56秒 | 展覧会の紹介-現代美術
(承前)

 2月上旬の札幌行きから、気がつけば1カ月がたっている。
 まだ書いていない記事がかなり残っている。いつものパターンだ。
 せっかく見たのに、見ごたえがあって文章を書くのに骨が折れる展覧会が後回しになってしまうのだ。だめな私…。


 山田大揮さんの個展は、北海道教育大学岩見沢校の空間造形研究室の修士課程修了展として行われた。
 同研究室の展覧会は毎年、札幌市資料館ミニギャラリーの5室か6室を借りて開いており、わざわざ会場も日時も少し変えて独自に開催したのが不思議だったが、会場に入って、なんとなく合点がいった。平たくいうと、資料館の床を傷つける可能性があるインスタレーションだったからだ。

 古い蔵を改装した、教育大の施設(ギャラリー)に入ると、フライヤーなどが置いてある玄関の小さな空間を過ぎるとすぐに、床に石が敷き詰めてある。
 砂利よりも大きくて、河原にあるほど丸くなく、靴の下から存在感が伝わってくる石だ。これを踏んでいかないと、中には入れない。

 中には、建築現場のゴミ捨て場から拝借してきたような、板材や石膏ボードが半ば壊れたまま散らかっている。
 石と違って、こちらは踏んで良いのかどうかためらわれる。
 そして、よく見ると、木の板やボードには短いテキストが印字されている。

 最初、山田さんは、会期も短いことから、テキストが途中で薄くなって読めなくなる可能性については考えていなかったようだが、途中から紙に印刷して来場者が持ち帰れるようにしたようだ。

 単なる石膏ボードの説明かと思いきや、読んでいくうちに、100~150年前の北海道に思いをはせるよう、鑑賞者を促すような文面になっている。





 この会場には、バックヤードとしても用いられる別室が奥にある。
 扉を開くと、小さなプリズムが置いてあって、反対側の壁に、やはり小さな虹が写っていた。
 山田さんによれば、これは作品ではないと言っていたが、なんか引っかかるなあ(笑)。

 ただ、この扉のあたりで聞こえる、ヒューヒューという風の音は、作品の一部だということだった。

 こういう道具立てから思い起こされるのは、北海道の開拓の歴史であり、そのためにつらい目に遭ったアイヌ民族の存在である。
 このインスタレーションが優れているのは、いわゆる「解釈オチ」にとどまっていないこと、いいかえれば、石や木がアイヌ民族の象徴であってそれを踏めば…と言葉で解説したら一切が分かってしまってそれ以上の干渉の余地がない、というような作品ではないことである。したがって、あまり仔細に述べるとかえって作品そのものからかけ離れてしまう危険性があるのだが、それでもわたしたちは、否応なしに石を踏んでしまうこと、その際の足の裏の感触について考える。
 そして、その感触をほどなくして忘却してしまうことも。


 石膏ボードは、この会場の建物をつくっている札幌軟石との対比の意味で配されている。
 軟石は道内の何カ所かで採掘され、札幌市南区でも取れて、それが「石山」という地名になっていまも残っている。石膏ボードが普及する以前、札幌の建築を支えてきたのはこの軟石であった。
 札幌市資料館が「ホワイトキューブ」かどうかはさておき(あの建物も札幌軟石でつくられている)、作者の思いがサイトスペシフィックなほうに近接しているのは明らかだろう。

 風の音は、山田さんが道東の美幌峠で耳にしたものがもとになっている。

 美幌峠というのは面白いところで、オホーツク管内美幌町にあるからその名前がついているのだが、売り物の雄大な眺望は、美幌町側ではなく、屈斜路湖などすべて釧路管内の風景なのだ。

 それはともかく、美幌峠の眺めは、人の手の加わっていない、原始の風景なのだ。
 だが、山田さんの思いは、そういうロマン主義的な回収の手つきを、むしろ、批判する方向に向かっているようにも思われる(このへん、微妙なのだが)。

 石の下にはマイクが仕込んであり、踏んだときの音は、2階の小部屋に伝えられているという。
 誰も当事者であることから逃れられない。それが、作者の意図なのだ。


(この流れだと、アイヌ民族と和人のこととか、当事者性について語らなくてはなるまいが、とりあえずアップします) 
 


2020年2月6日(木)~10日(月)正午~午後8時
北海道教育大学A&S文化複合施設HUG(札幌市中央区北1東2)

□twitter @_yamadahiroki

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