行動美術協会の行動展は、戦争の激化で活動休止に追い込まれていた二科展が、終戦直後に三つに分裂してできた団体公募展のひとつ。
創立会員に、道内ゆかりの田中忠雄と田辺三重松がいたこともあるせいか、独立美術や自由美術とならんで北海道ではなじみの深い団体公募展であり、函館では毎年、移動展が開かれていた。京都や名古屋、金沢などの皆さんには団体公募展の移動展は、珍しくもなんともないかもしれないが、北海道で毎年移動展を開催していたのは、行動美術と「春の院展」だけだったのである。
その函館移動展が2006年を最後に終了し、08年から、三十数年ぶりに札幌での作品展が、隔年で開かれるようになった。
ただ、函館を中心としたメンバーと、札幌および旭川などのメンバーとはどういうわけか足並みがそろわず、これまで函館在住の会員には、出品を見送る人が多かった。今回はついに、函館在住の会員がゼロとなっているのがさびしい。
絵画は、ベテランが多いぶん、前回とほとんど画風は変わっていないが、さすがに高水準である。
小笠原実好「ブラックナッツ」(P100)は、表面を彫刻刀でえぐったような線がぐるぐると走り回り、黒い色をあいまって重量感たっぷり。
神田一明「彼女の休日」(P150)は、乱雑な室内を描いた神田さんらしい作品だが、縦位置は珍しい。
人形、顔の部分だけの立体(仮面?)、ビール瓶、置時計、新聞紙などがちらばり、新聞紙は英字紙をコラージュした部分と文字を手書きした部分とが混在している。奥にはソファが置かれて猫が寝そべり、その近くには「2015・ASAHIKAWA」と書かれた板?があって、サクソフォンが置かれている。壁には釘が三つ取り付けられ、そのひとつから一眼レフカメラが吊り下げられている。
右側には金髪の女が立っている。茶色のスカートに濃い色のセーター?を着て、グラスを両手で抱えるように持っている。
斎藤矢寸子「砂漠の薔薇」(F150)。
長年続けてきた「卵型都市」シリーズから離れ、モティーフは、今回の出品作家でももっとも変化したと思われる。津波で大きな被害を受けた海岸の町を思わせるような、コンクリートの基礎だけが残る地面に、巨大な、バオバブのような木が4本ほどはえている。手前には、ショールをはおるドレス姿の女がおり、右側にもベールをかぶった女が描かれている。さらに、空中にも女が座って、熱帯にありそうな花がちりばめられている。遠景の山は黄緑色で空はビリジアンというだけでも不思議な光景だが、もっとも不思議なのは、コンクリートの基礎やバオバブの木などの大きさのつじつまがあわないことである。空中には小さな雲が浮かんで、ところどころで雨を降らしているが、この高さ・大きさも、現実離れした奇妙なものだ。
高橋三加子「刻―2015」(F130)
あいかわらずの、中間色の魔術師ぶりを発揮している。
人物はますます直線主体で処理され、頭部は小さくなり、性別や年恰好は不明瞭になっている。
横に4人並んでいるうち、左端の人物は前かがみになりバケツでぞうきんを洗っているように見えるから、この人たちは掃除をしているのだろうか。
高橋さんは「刻―2014」(同)も出品している。
会員はほかに、
富田知子「乾いた領域」(F120)「再生」(F50)
宮本 翠「宙のシンフォニー」(F150)
矢元正行「2011年3月」(F120)「樹」(184×31センチ)
矢元さんの作品にはいわくありげな題がついているが、絵の中身はいつもと同様、おびただしい人物が描かれている。
会友では、手塚昌弘「皮膚」(F150)がすごい。
マティエールのみで大画面が成り立っている。
手塚さんの絵を見ていると、もはや現代の絵画は描く対象が何もないという、ある種絶望的な認識を感じる。考えすぎかもしれないが。
伊藤幸子「天壌無窮」P150
菊地章子「Memory I」F150 「Memory II」F60
北村京子「二人」F130
北村葉子「挽歌」F150
佐々木治「あじさいのある室内」F100 「1月の静物」F30
佐藤静子「パンタ・レイ」F130
手塚昌弘「Line」F150
星エヰ子「春の兆し」F150 「壊れそうな心」F130
松木眞智子「expression A」「expression B」いずれもF130
一般では、和泉よう子さんの「刻の記憶―I」(F100)「刻の記憶―II」(F130)が、ボール紙を表面に貼り付け、その亀裂から下地の茶色がのぞいて、傷跡のように痛々しかった。「I]は、亀裂が垂直に走り、どこかバーネット・ニューマンを思わせる。
梅津美香「還る場所」F100
小林邦弘「石垣島「オオゴマダラ物語」」 「沖縄「オオゴマダラとスジクロガマダラ」」いずれもF100
中江孝子「地に伏す」F100
松本富治「ある大空の下で」F130
斉藤康彦「竹林」11×13.5×15センチ 「集合」11×15×24センチ ※彫刻
2016年3月7日(月)~12日(土)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
関連記事へのリンク
■行動展北海道地区作家展 (2014)
■行動展北海道地区作家展 (2010)
■行動展北海道地区作家展 (2008)
□行動美術協会 http://www.kodo-bijutsu.jp/
■矢元政行小品展 混沌なる風景 (2015)
■富田知子展 (2008)
■松木眞智子展 (2008)
■北村葉子展 (2007)
創立会員に、道内ゆかりの田中忠雄と田辺三重松がいたこともあるせいか、独立美術や自由美術とならんで北海道ではなじみの深い団体公募展であり、函館では毎年、移動展が開かれていた。京都や名古屋、金沢などの皆さんには団体公募展の移動展は、珍しくもなんともないかもしれないが、北海道で毎年移動展を開催していたのは、行動美術と「春の院展」だけだったのである。
その函館移動展が2006年を最後に終了し、08年から、三十数年ぶりに札幌での作品展が、隔年で開かれるようになった。
ただ、函館を中心としたメンバーと、札幌および旭川などのメンバーとはどういうわけか足並みがそろわず、これまで函館在住の会員には、出品を見送る人が多かった。今回はついに、函館在住の会員がゼロとなっているのがさびしい。
絵画は、ベテランが多いぶん、前回とほとんど画風は変わっていないが、さすがに高水準である。
小笠原実好「ブラックナッツ」(P100)は、表面を彫刻刀でえぐったような線がぐるぐると走り回り、黒い色をあいまって重量感たっぷり。
神田一明「彼女の休日」(P150)は、乱雑な室内を描いた神田さんらしい作品だが、縦位置は珍しい。
人形、顔の部分だけの立体(仮面?)、ビール瓶、置時計、新聞紙などがちらばり、新聞紙は英字紙をコラージュした部分と文字を手書きした部分とが混在している。奥にはソファが置かれて猫が寝そべり、その近くには「2015・ASAHIKAWA」と書かれた板?があって、サクソフォンが置かれている。壁には釘が三つ取り付けられ、そのひとつから一眼レフカメラが吊り下げられている。
右側には金髪の女が立っている。茶色のスカートに濃い色のセーター?を着て、グラスを両手で抱えるように持っている。
斎藤矢寸子「砂漠の薔薇」(F150)。
長年続けてきた「卵型都市」シリーズから離れ、モティーフは、今回の出品作家でももっとも変化したと思われる。津波で大きな被害を受けた海岸の町を思わせるような、コンクリートの基礎だけが残る地面に、巨大な、バオバブのような木が4本ほどはえている。手前には、ショールをはおるドレス姿の女がおり、右側にもベールをかぶった女が描かれている。さらに、空中にも女が座って、熱帯にありそうな花がちりばめられている。遠景の山は黄緑色で空はビリジアンというだけでも不思議な光景だが、もっとも不思議なのは、コンクリートの基礎やバオバブの木などの大きさのつじつまがあわないことである。空中には小さな雲が浮かんで、ところどころで雨を降らしているが、この高さ・大きさも、現実離れした奇妙なものだ。
高橋三加子「刻―2015」(F130)
あいかわらずの、中間色の魔術師ぶりを発揮している。
人物はますます直線主体で処理され、頭部は小さくなり、性別や年恰好は不明瞭になっている。
横に4人並んでいるうち、左端の人物は前かがみになりバケツでぞうきんを洗っているように見えるから、この人たちは掃除をしているのだろうか。
高橋さんは「刻―2014」(同)も出品している。
会員はほかに、
富田知子「乾いた領域」(F120)「再生」(F50)
宮本 翠「宙のシンフォニー」(F150)
矢元正行「2011年3月」(F120)「樹」(184×31センチ)
矢元さんの作品にはいわくありげな題がついているが、絵の中身はいつもと同様、おびただしい人物が描かれている。
会友では、手塚昌弘「皮膚」(F150)がすごい。
マティエールのみで大画面が成り立っている。
手塚さんの絵を見ていると、もはや現代の絵画は描く対象が何もないという、ある種絶望的な認識を感じる。考えすぎかもしれないが。
伊藤幸子「天壌無窮」P150
菊地章子「Memory I」F150 「Memory II」F60
北村京子「二人」F130
北村葉子「挽歌」F150
佐々木治「あじさいのある室内」F100 「1月の静物」F30
佐藤静子「パンタ・レイ」F130
手塚昌弘「Line」F150
星エヰ子「春の兆し」F150 「壊れそうな心」F130
松木眞智子「expression A」「expression B」いずれもF130
一般では、和泉よう子さんの「刻の記憶―I」(F100)「刻の記憶―II」(F130)が、ボール紙を表面に貼り付け、その亀裂から下地の茶色がのぞいて、傷跡のように痛々しかった。「I]は、亀裂が垂直に走り、どこかバーネット・ニューマンを思わせる。
梅津美香「還る場所」F100
小林邦弘「石垣島「オオゴマダラ物語」」 「沖縄「オオゴマダラとスジクロガマダラ」」いずれもF100
中江孝子「地に伏す」F100
松本富治「ある大空の下で」F130
斉藤康彦「竹林」11×13.5×15センチ 「集合」11×15×24センチ ※彫刻
2016年3月7日(月)~12日(土)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
関連記事へのリンク
■行動展北海道地区作家展 (2014)
■行動展北海道地区作家展 (2010)
■行動展北海道地区作家展 (2008)
□行動美術協会 http://www.kodo-bijutsu.jp/
■矢元政行小品展 混沌なる風景 (2015)
■富田知子展 (2008)
■松木眞智子展 (2008)
■北村葉子展 (2007)