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これぞ暁斎! ゴールドマン コレクション 東京2017-2(10)

2017年05月09日 07時54分36秒 | 道外で見た展覧会
(承前)

 幕末から明治にかけて活躍した絵師、河鍋暁斎かわなべきょうさいの魅力にはまったのは、2002年、東京・原宿の太田記念美術館が開いた「初公開 イスラエル・ゴールドマンコレクション 河鍋暁斎展」でした。
 とりわけ「天竺渡来大評判 象の戯遊たわむれ」は、曲芸をしたり、らっぱを吹いたりする象の奇抜な絵がたくさん描かれており、いくら江戸っ子にとっては珍しい生き物だとしても「これはいくらなんでも無理だろう」と突っ込みを入れたくなる姿態に大笑いしたものです。今回、この作品に15年ぶりに再会することができただけでも、雨の渋谷の街路で道に迷いながらも展覧会に駆けつけた甲斐がありました。

 おもえば、2002年当時、筆者は恥ずかしながら暁斎のことをほとんど知りませんでした。
 これは、あながち筆者のせいだけともいえません。日本の美術史のなかで、江戸の浮世絵は安藤広重、小林清親らで幕を閉じるし、その一方で明治以降の近代は高橋由一あたりから記述が始まるのが通例でした。暁斎は、画家としてのキャリアのちょうど真ん中あたりに明治維新がくるために、双方の美術史から抜け落ちてしまっていたのではないでしょうか(実は、文学史では、この世代で取り上げるべき作家はほとんどいない)。
 さらに暁斎は、浮世絵師に弟子入りしていますが、狩野派の技法も身につけ、幽霊画も描けば錦絵も手がけるといった、ジャンルにこだわらない活動ぶりだったために、よけいに既存の美術史におさまりづらかったきらいがあると思います。
 02年に筆者が訪れた際の太田記念美術館はすいていました。

 しかし、1990年代なかばあたりから、暁斎の再評価はじわじわと進んでいたのです。
 これは、公益財団法人河鍋暁斎記念美術館のサイトの「他館での美術館」というページを見れば一目瞭然。94年から年間複数回の河鍋暁斎展が各地で開かれるようになってきます。
 2006年には岩波文庫から、当時のお雇い外国人で暁斎に弟子入りしたコンドルによる評伝「河鍋暁斎」が出るなど出版物が相次ぎ、08年に国立京都博物館で大規模な回顧展が開催されるなど、かなり知名度の高い存在になってきました。
 かつては「おまえら、河鍋暁斎を見ろ!」という気持ちだった筆者も、そこそこ観客の多く来ていた Bunkamura では「ああ、やっとここまで来たんだなあ」と、なんだか安らいだ気分になっていたのです。

 今回は、象のほか、烏の図のさまざまなバリエーション、カエルを主人公とした風刺画、踊るがいこつが印象的な「地獄太夫と一休」、山水図、寒山拾得、百鬼夜行、放屁合戦、羅漢、さらには春画など総計173点。
 京博のときよりもゴールドマンさんのコレクションは、笑える絵が多いようです。
 ナマズが長~いひげの先に手紙を結わえ付けて、ネコにはいっと渡したり、カエルの人力車の車輪がハスの葉になっていたり、見ていると口元が思わず緩みます。

 ともあれ、じゅうぶん満足しました。
 安らいだ気分というのは、たくさん見て満足という気持ちでもあったと思います。
 たっぷり鑑賞できたので、今後は本州でわざわざ見ることはないかもしれません。ただ、道内ではまったくといってよいほど展示がないので、一度は展覧会をやってもらいたいものです。


2017年2月23日(木)~4月16日(日)午前10時~午後7時、会期中無休
Bunkamura ザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂2-24-1)

次の会場に巡回
4月22日~6月4日、高知県立美術館
6月10日~7月23日、美術館「えき」KYOTO
7月29日~8月27日、石川県立美術館


関連記事へのリンク
絵画の冒険者 暁斎 近代に架ける橋 (2008、国立京都博物館)
河鍋暁斎展 (2002、太田記念美術館)



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